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ユニバーサル・ミュージアムをめざして52

 

聞いてみて、初めてわかることがある-1

 

三谷 雅純(みたに まさずみ)

 
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 わたしには、聞いてみるまでわからなかったという経験が、何度もあります。聞いてみて初めて「そうだったのか」と思い当たる。聞いてみることは大切です。勝手な思い込みはひかえるべきです。当事者の意見を尊重するべきです。特に本人が身近にいる場合には、そして、気楽に話してくれるなら、ぜひとも聞いてみるべきです。

 

☆   ☆

 

 兵庫県には「トライやる ウィーク」という制度があります。中学2年生になった時、子どもがおとなの仕事を「学び」に行くのです。中学生になって、子どもの世界から、いろいろな世界が見えるようになった時に、おとなの世界を覗(のぞ)いておけば、現実の社会を知るいい機会になるはずだ。現実の社会に繋(つな)がるかもしれないという試みです。

 

 現代に生きる子どもたちには、現実の世界と空想だけで作ったバーチャルな世界が、区別できなくなっている人がいます。と言うより、(わたしも含めた)おとなには、現実世界の変化が速すぎて、「空想の出来事」だと思っていたことが、いつの間にか現実に起こっていると言った方が実感があるのでしょうか。でも、どれほど「想像を絶すること」であっても、現実の世界では、やるべきことと、やるべきではないことがあります。「できること」と「やっていいこと」は別物です。

 

 「トライやる ウィーク」に参加する中学生も、頭で考えただけの知識ではなく、現実の可能性として将来が思い描けるようになる。「トライやる ウィーク」は、そうあってほしいという試みかもしれません。今年は、わたしもひとり、中学生を預かることになりました。

 

 その生徒は、初めて出会うわたしに緊張気味でした(中学生ですから、初対面では、緊張して当たり前です)。しかし、会ってみるとハキハキとした、言うべきことが言える男の子でした。実を言うと、わたしも緊張していました。どんな中学生だろうと、内心、ドキドキだったのです。しかし、彼の言い方を聞いて安心しました。どうやら、わたしにうちとけてくれそうです。

 

 「トライやる ウィーク」は、その子といっしょに4日間、博物館の建物を見て回りました。

 

☆   ☆

 

 彼は博物館員になってみたくて<ひとはく>を選びました。ほかの中学生も、それぞれの研究員について行きました。標本の整理法だとか、ビオトープ("人工の自然"と呼べば、わかりやすいのかもしれません)の掃除といった、地味だが大切な日常の作業があるのだと教えてもらいます。

 

 その男の子には、どんな仕事をやってもらえばいいのでしょうか? 実は、その子でなければできないことがありました。それは「<ひとはく>の建物で、あなたにとって不便なところを教えて下さい」という課題でした。

 

 その子は電動車イスを使っていました。

 

 法律や条令では、公共の建物は誰でも自由に行き来できるように整えましょうと決まっています。ですが、<ひとはく>は20年以上前に建ちました。<ひとはく>が建つ前には、同じ建物がホロンピア館として博覧会で利用されていました。<ひとはく>の建物は古いのです。どれほど手直しをしても不便は残るでしょう。そんな不便を、車イスを使う来館者になって見付け、こんなところに、こんな不便があったのだと教えてほしい。こんな課題は彼でなければできません。それに、背の高さが車イスを使う彼と同じ幼児の目線ですから、その意味でも不便なところが見付かります。車イスを使う当事者や幼児でもなければ、おとなには、なかなか不便に気がつきません。そんなところは、ぜひ直して行かなければなりません。今すぐ手直しができなくても、こんなところに、こんな不便があるのだと知っておかないと、将来、直すことはできないのです。その男の子の責任は重大です。

 

 わたしたちは作戦を立てました。まず二日がかりで館内を回って、不便を探します。次に博物館の周りを見て回ります。博物館の外は深田公園という市民公園になっています。また起伏の大きな三田市では起伏をカバーするために、博物館の屋上が一般の歩道になっているのです。ただし、男の子に歩道のことは秘密です。行ってみて、どのように驚くかが楽しみです。公園や屋上に車イスで行くためには工夫が必要です。階段は使えません。そのためのルートを考えました。山登りの要領です。

 

 その子にとって、山登りの計画を立てるのは、初めてでした。しかし、その辺はわたしが得意なのです。心配いりません。わたしは以前から野外に出ることが得意でした。登頂の計画なら「まかしておきなさい」なのです。

 

☆   ☆

 

 館内を回って、彼が教えてくれた不便なところです。

 

1.うかつな人が段差と感じない段差も、彼の腕の力やモーターの力では、乗り越えられなかった。

2.机の高さの設定は低いものがあり、研究室の机は低すぎて利用できなかった。お弁当を食べるための机や情報端末は、車イスのままでも座りやすかった。

3.コンピュータが出すクイズの問題は、中学生でもわからない言葉が出ている。問題はひとはくの研究員が作ったのだが、何を聞いているのか、よくわからない問題があった。

4.ビデオ・コーナーはクッションの効いた棒状のイスになっていて、3,4人で見るのに便利だった。だが、車イスだと造り付けのイスがじゃまになって、ビデオの途中で押すスイッチには指が届かない。指が届かないので観る事を諦めてしまった(残念!)。

5.地球の仕組みを調べるコーナーは、おとなの背丈があって、やっと、磁石が回転することで何をしているのかがわかる。子どもや車イスの人では、スイッチは押せても、それでどうなったのかがさっぱりわからなかった。

6.背の届かない子のために、あちこちの展示に幼児用の踏み台が置いてあるが、車イスだとかえって邪魔になる。

7.スロープの勾配がきついので、恐い。恐竜ラボや駐車場の段差のスロープ、2階フロアーから1階フロアーを結ぶスロープは、ひとりだと恐かった(ボランティアの人が助けてくれたので、何とかなった)。

 

 車イスの利用者がスロープを恐いと感じるのは当然です。わたしには、どれほど恐いかがよくわかります。わたしも脳塞栓症(のう・そくせん・しょう)で右半身がマヒしているのですが、病気になるまでは平気で下りていた階段が、マヒをしてからは恐くてたまらなくなったのです。今でも、我が家の2階から1階に下りる階段は、手すりがあるのに恐い。

 

 しかし、段差が乗り越えられないとは、思いもしませんでした。男の子の腕にマヒがあるせいかとも思いましたが、それだけではないようです。電動車イスのモーターの力を借りても乗り越えられなかったのです。館内を自由に動き回るのは、ひとりでは無理だということです。

 

 幼児用の台と車イスでは、要求がバッティングしています。幼児用の台を置いたら車イスは入れない。車イスを優先したら、小さな子が見られない。う~ん......。

 

 外に出た時のようすは次に書きます。

 

 

 

 

三谷 雅純(みたに まさずみ)
兵庫県立大学 自然・環境科学研究所
/人と自然の博物館
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