生物には世界共通の名前が付いています。これを学名と言いますが、時々名前が変わることがあります。その例をヘビイチゴで紹介します。

学名は、普通「属名」と「種小名」の2つの部分からできています。人の名前にあてはめると、姓が「属名」、名が「種小名」を表します。例えばよく庭に植えてあるパンジー(三色スミレ)は、学名をViola tricolorと言いますが、Viola(スミレの仲間)が属名、tricolor(三色の)が種小名で、「三色の花をつけるスミレ」という意味になります。

さて、ヘビイチゴの学名ですが、果実がオランダイチゴに似ていることからオランダイチゴ属(Fragaria)に入れられたり、独立したヘビイチゴ属(Duchesnea)とされたりしてきました。オランダイチゴ属で扱う場合は Fragaria chrysantha、ヘビイチゴ属として扱う場合は Duchesnea chrysantha とされます。

ところが、最近の遺伝子解析の結果から、ヘビイチゴはオランダイチゴよりもキジムシロ属(Potentilla)に非常に近いということが明らかになりました。キジムシロ属植物は、ヘビイチゴと同じような黄色い花をつけますが、ヘビイチゴのように果実(果托)は膨らみません。つまり、ヘビイチゴとオランダイチゴの果実の類似は「他人の空似」で、ヘビイチゴはキジムシロと同じ仲間として扱うべきだと考えられました。

写真1    オランダイチゴ属の果実 Fragaria1.jpg写真2 ヘビイチゴ属の果実
Duchesnea2.jpg

写真3  キジムシロ属の果実

Potentilla3.jpgところが、ヘビイチゴをキジムシロ属に含める場合、学名上の問題が生じます。ヘビイチゴをキジムシロ属(Potentilla)として扱う場合、通常であれば、Potentilla chrysantha となります。ところが、この学名はすでに別の植物に対してつけられたもので、別々の植物に同じ学名がつくと、混乱を招きます。ちょうど同姓同名の人がいた時に、名前だけでは区別がつかなくなるようなものです。このような場合、後からつけられた名前には別の名前をつける必要があります。

そこで、ヘビイチゴの学名は Potentilla hebiichigo と変えられました。
「hebiichigo?」と思った人、よく気が付いてくれました。アルファベットだと思って素通りせず、なんてすばらしい!!
この名前は日本人が付けたのです。ですから、日本で使われている名をとって Potentilla hebiichigo(ヘビイチゴと呼ばれるPotentillaの仲間)という名前になったのです。


ヘビイチゴは田んぼや畑の脇などに生える多年草で、北海道から沖縄まで広く分布しています。春に黄色い花を咲かせ、その後真っ赤な実をつけます。実がデザートに食べる苺(オランダイチゴ)に似ているので「蛇苺」と言いますが、毒があるわけではありません。 

 山本伸子(自然・環境評価研究部

 

これまでのお話は→

ヘビイチゴの話 その2  http://hitohaku.jp/blog/2011/05/post_1219/

ヘビイチゴの話 その1  http://hitohaku.jp/blog/2011/04/post_1175/

 

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