2008年の12月下旬から1月上旬にかけて,タイ国北部チェンマイ近郊にあるインタノン山(Doi Inthanon)で行われた日本・タイの協同調査に参加してきました.インタノン山はこの国の最高峰です.麓一帯の落葉性フタバガキ林,中腹の山地性シイ・カシ林,そして山頂付近のあつくコケ類に覆われた雲霧林まで,さまざまな森林が豊かに広がっていて,インタノン山は国立公園になっていて,タイの中でもっともよく森が残っている場所の一つです.調査中に森が雲に覆われると,幻想的な雰囲気になります(写真1).


写真1:雲に覆われた森の様子

 今回私たちのチームの目的は,標高1700mの山地林に設けられた縦300m横500m,面積15ヘクタールにもなる永久調査区内に生えている,およそ16000本の樹木に着生する植物の種多様性を調査することでした.もちろん,一回の調査ですべてを調べることはできず,少なくとも今後3年間はつづく研究になります.


写真2:高木の樹幹の様子


写真3:木登りの準備

 今回は60mに達する高い木の幹や上部の枝に着生する植物を調べました(写真2).普段人が知ることのない場所に,どんな植物が生活しているのかを知るためです.庭の柿の木を登るのとはスケールがあまりに違うため,日本から木登りの専門家も参加されていました.普段は樹上に建物をつくるツリーハウスの現場や木登り講習会などで活躍されている方です.木に登るためのたくさんの道具が持ち込まれていました.朝のぼると夕方まで降りてきませんので,結構大変な仕事です.登るための道具も,安全を考えてるととてもたくさんになります(写真3).


写真4:一番下の枝まであとちょっと

木登りといっても大木ですから幹を登ることは不可能で,上部の枝にかけたロープに特殊な器具(登降器)をつけて,それを何度も上下されることで上へ登ります.ですから,途中ではロープ一本に完全にぶら下がっている格好になります(写真4).

 私はコケ植物が担当でしたし,高いところは苦手なので,木に登ることもなく,ひたすら毎日林床を歩きまわり,地面や樹幹,ときには上から落ちてきた枝や幹についているコケ植物を集めていました.宿舎に戻ってからは,木登りチームがもちかえった地上40m〜60mの枝を調べて,そこについている大小様々なコケ植物を集めます.そのおかげで,日がよくさす林冠部と薄暗い林床部では,そこに生えるコケの種類が相当違っていることを実感することができました.


写真5;花盛りのサクラ

 調査期間中は雨期あけにあたり,ちょうどサクラの花盛り.小振りのピンク色の濃い花で,その可憐な姿は日本の早春を思わせるものでした(写真5)

自然環境評価研究部 秋山弘之

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