岩槻邦男のコラム7

2009年9月11日

 4月にこのコラムを始めた時、月に2回ほどのペースで、と約束しましたが、早々に7、8月の2ヶ月は休載してしまいました。9月から復刊し、今度は中断なく続けたいと思っております。
 「週刊文春」の09年8月27日号に、夏休みに訪れたい博物館を紹介する特集があり、自然科学系の博物館のランク付けでひとはくが3位に評価されていました。1位の科博は国立で予算規模がちがい、2位の科学技術館の立地や設立基盤も考えますと、地方公共団体が設置している機関としては最高位に評価されたものとありがたく見せてもらいました。すでにこのコラムの先行号で紹介しましたひとはくのさまざまな前向きの取り組みの成果が、外から見た評価でもそれなりの得点を得る効果を生み出しているということでしょうか。

 今年の夏休み期間中の入館者や、諸行事への参加者は例年より多く、実際に来館くださった人たちにも、ひとはくの取り組みは評価していただけていると見せてもらっています。展示のリニューアルもできないままに設備の老朽化に悩んでいても、予算の削減に行動を縛られていても、その気になれば自ら汗を流し、手を動かすことで、生涯学習支援にもそれなりの効果を上げることができることを実証しているようでもあります。ただし,大和魂だけでやれることには限界がありますし、玉砕精神ならば一過性で終わってしまいます。活動をいかに永続させるか、4次元での展開を描き出すことが条件であることはいうまでもありません。


 ひとはくの活動のひとつの成果として、地域の組織、機関との恊働に成果を収めている点があげられます。キャラバンという名の博物館の出張活動を通じて、県下一円にひとはくの活動を展開したことは、多大のエネルギーを要することではありましたが、それ相応の収穫にも恵まれました。その展開のひとつに、消えようとしていた佐用の昆虫館の再生への恊働がありました。昨夏、わたしもこの館と共催のフィールドトークに参加し、何年ぶりかで船越山麓を訪れました。わたしがまだ大学院生だった頃、恩師の故田川基二先生がここで得られた材料をもとにルリデライヌワラビという新種を発表された場所です。昆虫館の内海功一先生とも、40何年ぶりにお逢いし、昔の仲間たちの話題で会話を楽しんだことでした。ところがこの夏佐用町を直撃した台風9号の集中豪雨で、残念なことに、この施設も致命的な被害を受けとの情報に接しました。もともと行政の支援に限界があって維持が危ぶまれていた昆虫館が、有志の努力もあって、新しくつくられた NPO に支援され、存続が確かめられたところへの打撃でした。それでなくても町の再生に手一杯の佐用町に、昆虫館を修復する余裕は期待できません。恵まれた場所に設定され、自然環境に関する生涯学習支援に実績を上げてきたこの昆虫館の復興のためには、有志の協力が不可欠です。ぜひ多くの方が関心をもっていただき、前向きに協力をしていただくようお願いします。ひとはくのスタッフもお手伝いをしています。


 内閣府が6月に行った調査によりますと、生物多様性という言葉を聞いたこともないと答えた人が 61.5 %に達するといいます。1年後に迫った第10回生物多様性条約加盟国会議(COP10)で、それなりに報道が見られるようになったと思っていましたが、まだこんな数字かと残念に思います。生物多様性国家戦略を知っていると答えた人はわずか3.8 %だったといいます。ひょうご戦略がどれだけの人に知られているか、心配です。政治の世界で組織が変わっても、国民全体に広く認識が行き渡るようでなければ、変化は表面だけで通り過ぎるでしょう。ひとはくの生涯学習支援の活動がますます着実な歩みを展開していくようでなければならないとあらためて実感することです。

 いい情報と厳しい情報の錯綜する夏でした。

 

 

岩槻邦男(人と自然の博物館 館長)

 

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