岩槻邦男のコラム10

2009年10月27日

 ひとはくの新展開では、博物館活動の原点に戻り、生涯学習支援とシンクタンク機能の発揮が活動の2つの柱とされました。生涯学習支援の視点はすでに第8回に取り上げましたので、今回はシンクタンク機能について、ひとはくが貢献している実例をいくつか拾い上げて紹介します。

 シンクタンク機能とひとことでいっても、多様な対応が期待されます。県立の博物館という博物館の位置づけから、県政課題への対応が業務としても必要なことはいうまでもありません。この領域では、第3回に紹介しました「生物多様性ひょうご戦略」策定での貢献が分かりやすい実例です。近頃の評価システムでは、委員会にどれくらい出ているか、などと数字に表れやすい資料が大手を振って歩くことになっていますが、ひとはくも実際いろんな委員会での貢献もしています。しかし、戦略に結びついたのは、絶滅危惧種や外来生物への日常的な対応、里山林などの基礎的な調査研究から管理維持への貢献など、これまでに積み上げてきた実績です。博物館としての日頃の調査研究活動が、県政課題へのシンクタンク機能に結びついているきれいな実例といえます。

 ひょうご戦略に実った成果は、来年秋の生物多様性条約加盟国会議(COP10)に向けての活動、とりわけ神戸で開催される諸会合での活動につながり、ひとはくのメンバーの貢献はここでも光っています。環境問題は「地球規模で考え、地域で活動を」と訴えられます。兵庫県における地道な活動が地球の明日への指針を描き出すことが、兵庫県の自然の保全につながる基本です。

 県立の博物館だから県政課題に貢献していればそれでいいというものではないでしょう。県立の機関は県民のものです。実際、兵庫県におけるさまざまな自然環境問題への取り組みに、ひとはくはシンクタンクとしての役割を果たしています。ひとつは、市町村等の公共団体への助言と協力です。具体的に協力協定を結んだり、形式上の取り決めはなくても、実際上求められて事業の企画に助言をしたり、評価に協力したりと、さまざまな貢献を重ねています。

 自然環境と人とのかかわりは、行政だけで理想的に維持されるものではなくて、そこに住む人々の自主的な活動によって支えられるものです。日本列島の自然は、典型的に、日本人の、人と自然の共生を育んできた生き方によって維持されてきました。(そのことを、昨年の連続セミナーで話しましたが、内容をかいつまんで9月末に研成社から刊行した『生物多様性のいまを語る』に紹介しています。)現在もまた、自分たちの環境を大切にしようと考えるさまざまなNGO, NPO によって多様な試みが進められています。自然環境についての日常的な調査研究の知見に基づき、ひとはくのメンバーはこれらの人々に必要な助言を提供し、シンクタンクとしての機能を果たしています。求められて応じるだけでなく、ひとはくのキャラバン活動などを通じて、地域に新しい意欲を芽生えさせるきっかけづくりも行ってきました。ひとはくの活動に連携する人々の環を育てようという試みです。その成果は、毎年2月11日に開催することにしている「共生のひろば」で見事に花を開かせつつあります。

 今夏は佐用川できびしい災害に見舞われるという悲しい出来事がありました。ひとはくは船越山麓の昆虫館と強い連帯をもって活動しており、わたし自身も昨年は昆虫館との共同事業に参加しました。災害に見舞われた日もまさに連携活動が実施されている時でした。昆虫館の災害につきましては、このブログでもすでに紹介した通り、ここでの活動を大切にしている人々といっしょに、復興支援の呼びかけをしています。これもまた、ひとはくのシンクタンク機能から出発した具体的な活動です。シンクタンク機能は座って理論を展開することも大切ですが、環境問題への貢献を考えるなら、具体的な活動につながってはじめて成果が結ばれることも認識する必要があります。


岩槻邦男(人と自然の博物館 館長)

 

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