ひとはく研究員の発表論文紹介(2026年)
隔離された島固有のカニたち:ミヤコサワガニの局所スケールでの遺伝的集団構造
論文名:Isolated island endemic ceabs: Fine scale genetic population structure of an endangered freshwater crab, Geothelphusa miyakoensis著者:Yorisue T., Iguchi A., Nishijima M., Gibu K., Higa S., Takata K., Hamamoto K., Fujita Y.
雑誌の情報:Conservation Genetics、27巻3号、54、2026年
DOI:doi.org/10.1007/s10592-026-01785-8
内容紹介:沖縄県の宮古島だけに生息する希少なミヤコサワガニについて、島内3か所の生息地でDNAを調べました。その結果、生息地同士が近いにも関わらず、カニの行き来が少なく、それぞれの集団が遺伝的に孤立していることがわかりました。特に、生息範囲が約80平方メートルしかない場所では、遺伝的な多様性がいちぢるしく低く、絶滅の危険性が高まっていると考えられます。今後、生息地の保護と継続的な調査を進めることは重要です。
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| 宮古島固有のミヤコサワガニ |
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植物標本画像×AIで何ができるか?植物種同定ツールから新しい分類体系構築アシストまで
論文名:Herbarium specimens in the age of artificial intelligence: from herbarium image identification to integrative taxonomic AI著者:高野温子, Hyeonji Moon, 白井匡人, 田金秀一郎, Diego Tavares Vasques, 李忠建, Amjad Khan, Jeongwoo Seo, Sujeong Han, Chanho Park, Jaesung Lee, 秋廣高志, Sangtae Kim
雑誌の情報:Journal of Plant Research, online first
DOI:doi.org/10.1007/s10265-026-01743-y
内容紹介:この総説論文では、まず昨今急速に進む植物学分野へのAI利用について概観しました。次に現在世界中で数百万点の利用が可能な植物標本画像と画像分類AIや自然言語処理AIを用いて、標本の自動種判定や葉や花等各器官の自動切り抜き技術、ラベルデータの自動抽出システムが開発された経緯を紹介しました。最後にこれらの技術を組み合わせて、より合理的な植物分類体系の構築を目指す可能性について議論しました。
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| Integrative Taxonomic AI の概念図 |
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日本産オチバカメムシ属の3新種の記載
論文名:Japanese species of the minute litter bug genus Ceratocombus (Hemiptera, Heteroptera, Ceratocombidae), with descriptions of three new species著者:Kazutaka Yamada
雑誌の情報:Deutsche Entomologische Zeitschrift、73巻1号、153-170、2026年
DOI:doi.org/10.3897/dez.73.170965
内容紹介:森林の落葉層(落ち葉の下)に生息するオチバカメムシ属について、分類学的な研究を行い、南西諸島から3新種を記載しました。日本のオチバカメムシ属は、1910年にフィンランド人研究者によって2種が新種として記載されて以来、100年以上にわたって研究が行われていませんでした。一方、日本各地からは、多数の未記載種(新種の候補)の存在が知られてきました。今回、100年以上の空白を経て本属の分類学的研究に取り組み、3新種を発表しました。
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| ミツボシオチバカメムシ Ceratocombus trimaculatus Yamada, 2026 |
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草原植物・ヒゴシオン(キク科)の保全遺伝学的研究
論文名:Conservation implications from a population genetic analysis of the endangered semi‐natural grassland plant, Aster maackii著者:Kurata S., Sakaguchi S., Soejima A., Ito M.
雑誌の情報:Plant Systematics and Evolution、312巻42号、 2026年
DOI:doi.org/10.1007/s00606-026-02012-0
内容紹介:草原に生育する絶滅危惧植物・ヒゴシオン(キク科)の遺伝的多様性を評価した研究です。100年前まで草原は国土の10%以上を占めていましたが、現在は1%未満にまで減少しています。それに伴い、草原に棲む生物も減少しています。国内では阿蘇くじゅう地方(熊本・大分県)にのみ生育するヒゴシオンについて、遺伝子解析を実施したところ、遺伝的多様性の低下が検出されました。残存個体も1000株未満と非常に少ないため、保全に向けた対策が急がれます。
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| 阿蘇(熊本県)の草原に咲くヒゴシオン |
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本州西部からのガロアムシ目昆虫の2新種を記載
論文名:Two new species of Galloisiana Caudell, 1924 (Insecta, Grylloblattodea) from Western Honshu Island, Japan著者:中濱直之・ 山﨑健史・Nathan Lo
雑誌の情報:Subterranean Biology、 56巻、195-216、2026年
DOI:doi.org/10.3897/subtbiol.56.194481
内容紹介:ガロアムシ目昆虫2種類を兵庫県西部と鈴鹿山脈 (三重県北西部及び滋賀県南東部)から発見し、新種として記載しました。兵庫県西部の新種はハリマガロアムシ Galloisiana harimensis、鈴鹿山脈の新種はスズカガロアムシGalloisiana kawamurai と命名しました。どちらも現時点ではそれぞれ兵庫県と鈴鹿山脈しか知られていません。
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| 兵庫県西部に固有のハリマガロアムシ(メス) スケール: 2 mm |
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翅を食べあったクチキゴキブリの雌雄ペアのみが行う侵入者への排他的な攻撃行動の発見
論文名:Exclusive aggression against intruders in cockroach mating pairs following mutual wing-eating著者:大崎遥花・菊池顕生・Nathan Lo
雑誌の情報:Royal Society Open Science、13 巻 3 号、 251992、2026年
DOI:doi.org/10.1098/rsos.251992
内容紹介:昆虫(しかもゴキブリ!)のペアが、侵入者と配偶相手を正確に見分け、さらに侵入者のみを攻撃することを明らかにした研究です。
侵入個体が異性であっても、浮気(交尾)をまったくせず、むしろ配偶相手と協力して巣から追い出します。翅の食い合いをした配偶相手を侵入者と誤認することはありませんでした。ペアは社会の最小単位です。昆虫の社会がもしかすると、血縁に関係なく相手と他者を区別する「非匿名」な社会である可能性を浮き彫りにしました。
詳細はこちらのページをご覧ください。→→https://www.hitohaku.jp/research/h-research/20260304news.html
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暖温帯ナラ類二次林の地形勾配における林分構造と樹種組成の変異
論文名:Variation in stand structure and tree species composition across topographic gradients in a warm-temperate secondary oak forest of western Japan著者:Asumo Kuroda
雑誌の情報:Journal of Forest Research、31 巻 2 号、102-110、2026 年
DOI:doi.org/10.1080/13416979.2025.2598169
内容紹介:コナラが優占する里山林は、日本で広くみられる森林タイプのひとつです。人の手のほとんど入らなくなったこうした林が、将来どのように変化していくのか明らかにするため、樹木の種類や密度、個体のサイズ構造を調べました。その結果、全体としてアラカシなどの常緑広葉樹が増えていくことがわかりました。一方で、地形条件によっては、落葉広葉樹や常緑針葉樹が維持・更新される可能性も示唆されました。
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コナラ・アベマキの多い里山林。写真は晩秋の 景観で、林の上層ではこの落葉広葉樹2種が優 占している。一方、下層にはアラカシが多く生 育している。 |
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パキスタン産マメ科ゲンゲ属 Dissitiflori 節の分類学的再検討と新変種 A. schachdarinus subsp. chitralensis
論文名:Taxonomic notes on Astragalus sect. Dissitiflori (Galegeae, Fabaceae) in Pakistan, with the description of a new subspecies A. schachdarinus subsp. chitralensis著者:A. Khan, A. Sultan, A. Bagheri, H. Ali, A. S. Mumtaz, A. Takano
雑誌の情報:Phytotaxa、748 巻 1 号、43-60、2026 年
DOI:doi.org/10.11646/phytotaxa.748.1.3
内容紹介:この論文はパキスタン人留学生 Amjad Khan が、修士課程で行った研究の一部をまとめたものです。マメ科ゲンゲ属は日本ではレンゲが有名ですが、実は世界最大の属のひとつで、世界中の温帯域に約 3000 種が知られています。Amjad はパキスタン国内のゲンゲ属Dissitiflori 節植物の標本を丁寧に調べ、パキスタン初報告 5 種と新変種 1 つの記載を行いました。
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| Astragalus anfractuosus の草姿 (A-C) と花 (D) |
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土砂給源域と堆積域の宇宙線生成核種10Beを用いた隆起山地における地形発達史の復元
論文名:Reconstructing long-term landscape evolution of an uplifting mountain using cosmogenic 10Be in a sediment source-sink system著者:太田義将・松四雄騎・加藤茂弘・松崎浩之
雑誌の情報:Earth and Planetary Science Letters、690巻(120157)、2026年
DOI:doi.org/10.1016/j.epsl.2026.120157
内容紹介:本研究では、六甲山地の小流域において河床縦断面形や流域斜面の地形解析を進め、また河床堆積物中の宇宙線生成核種10Beの濃度を基に各流域の侵食速度を明らかにしました。次に、理論的地形学モデルを用いた解析により、山麓の活断層運動による六甲山地の段階的な隆起の加速と、それに応答した流域の侵食速度の増加による河床堆積物中の10Be濃度の時間変化を推定しました。また、対象流域からの流出土砂が堆積、保存された大阪湾沿岸部で掘削された摩耶埠頭580mボーリングコア(MYコア)を用いて、過去100万年間における堆積物中の10Be濃度の時間変化を明らかにしました。最後に、これら2種類の10Be濃度の時間変化を比較し、両者がおおむね一致したことから、地形学モデルを用いた地形解析の妥当性を検証するとともに、六甲山地の隆起過程と隆起に伴う山地地形の時間変化を明らかにしました。この研究は、侵食域である山地流域(Source)と、侵食・運搬された堆積物が蓄積、保存された堆積場(Sink)を結び付けて山地の地形発達過程を明らかにした重要な成果です。
詳細はこちらのページをご覧ください。→→https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2026-06-19-7
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兵庫県武庫川のドジョウにおける外来rag1アリルの検出
論文名:Detection of a non-native rag1 allele of Misgurnus anguillicaudatus in Muko River System, Hyogo著者:木村 亮太 ・ 高橋 鉄美
雑誌の情報:人と自然、 36巻、16-20、2026年
DOI:doi.org/10.24713/hitotoshizen.36.0_16
内容紹介:日本のドジョウと大陸のドジョウは、同じ種とされていますが、実は遺伝的に大きく異なります。本研究では、武庫川のドジョウを遺伝的に調べ、兵庫県では初めて、大陸のドジョウが入り込んで日本のドジョウと交雑していることを、明らかにしました。このような交雑は、大阪府などでも確認されています。ペットや釣り餌など、販売されているドジョウを放流することは、絶対にしないでください。同じ種であっても、このような問題が生じるのです。
詳細はこちらのページをご覧ください。→→https://www.hitohaku.jp/research/h-research/20260204news.html
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| 武庫川のドジョウ |
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日本産シソ科タツナミソウ属のから見出された2新種、シコクタツナミソウとキビノタツナミソウ
論文名:Two New Species of Scutellaria (Lamiaceae) from Japan著者:高野温子・廣田峻・陶山佳久・狩山俊悟・矢原徹一
雑誌の情報:Japanese Journal of Botany(植物研究雑誌)、 100巻(3): 215-225、2025年
DOI:doi.org/10.51033/jjapbot.ID0281
内容紹介:シソ科タツナミソウ属は、分類が難しい植物として知られています。 その分類を見直すために日本各地に採集にでかけ、標本調査や分子系統解析などを精力的に行っています。発表した2新種はその過程で見出されたもので、シコクタツナミソウは高知を除く四国3県に、キビノタツナミソウは岡山以西の中国地方に分布しています。どちらも花冠長が2㎝越えの大きな花をつけますが、その大きな花ゆえにハナタツナミソウという既知種と誤同定されてきたのでした。
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| 図. シコクタツナミソウの花 |
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台湾から得られたカラスハエトリグモ属の1新種について
論文名:A new species of the genus Rhene Thorell 1869 (Araneae: Salticidae) in Hengchun Peninsula, Taiwan著者:山﨑健史・山口茉莉加・L.T.H. Phung・R.-C. Cheng・I.-M. Tso
雑誌の情報:Acta Arachnologica、 74巻 2号、115-121、2025年
内容紹介:台湾南部の恒春半島から、カラスハエトリグモ属の1新種を記載しました。形態的な特徴や、ミトコンゴリアDNAのCO1領域の塩基配列からも、他の種と異なることが分かりました。
学名は、産地の「恒春半島」から、ラテン語の「常に、永遠の」という意味のaeternaと、「春」という意味のverを組み合わせて、Rhene aeternaverと命名しました。
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| Rhene aeternaver 左:オス 右:メス |
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野生植物の生息域外保全に向けた兵庫県立人と自然の博物館の取り組み:種子植物 81 種の発芽状況に関する報告
論文名:野生植物の生息域外保全に向けた兵庫県立人と自然の博物館の取り組み:種子植物 81 種の発芽状況に関する報告著者:一町裕子, 黒田有寿茂, 石田弘明, 中濱直之
雑誌の情報:人と自然, 36巻、58-66. 2026年
DOI:doi.org/10.24713/hitotoshizen.36.0_58
内容紹介:兵庫県立人と自然の博物館では、400種を超える野生植物の生息域外保全を実施しており、絶滅危惧種も多数含まれています。これらのうち種子から発芽をさせた81種について、その生育条件と発芽状況を報告しました。この生育条件が発芽にとって最も適切かどうかは議論の余地がある可能性があるものの、「この生育条件でこれだけの種子が発芽する」というデータの公表は、生息域外保全事業にとって非常に意義深いものです。
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| 植物栽培の様子 |
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ノキシノブ倍数体種複合体に属する異質六倍体の新種、タジマノキシノブ(Lepisorus tajimaensis T. Fujiw.)
論文名:Lepisorus tajimaensis sp. nov. (Polypodiaceae), a new allohexaploid species in the Lepisorus thunbergianus polyploid species complex著者:藤原泰央・丸岡道行・岡 武利・米岡克啓・小木曽映里・海老原 淳・村上哲明・綿野泰行
雑誌の情報:Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 、 76巻3号、 169-188 、2025年
DOI:10.18942/apg.202514
内容紹介:従来、一種とされてきた日本産ノキシノブ(広義)には3つの基本種(狭義ノキシノブ、ナガオノキシノブ、ツクシノキシノブ)とそれらが交雑して生じた3つの倍数体種が認められていました。今回、但馬地方(兵庫県養父市八鹿町)で、狭義ノキシノブとナガオノキシノブ、さらには少し遠縁のウロコノキシノブという3種のゲノムを併せもった六倍体の新種、タジマノキシノブを発見しました。
詳細はこちらのページをご覧ください。→→https://www.hitohaku.jp/research/h-research/20251114news.html
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| タジマノキシノブの生育環境(A)と植物体(BーE) |
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