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ひとはく研究員の発表論文紹介(2023年)

海浜植物イソスミレの実生の成長に及ぼす覆砂の影響:耐性と適応的反応

論文名:Effects of sand burial on seedling growth of the coastal dune plant Viola grayi: Tolerance and adaptive responses to sand accretion
著者名:Asumo Kuroda
公表雑誌名:Plant Species Biology、38、270-276
doi10.11.111/1442-1984.12426
内容紹介:砂浜・砂丘では、植物が飛砂などによって砂に埋もれることがあります。この覆砂が成長にどう影響するか調べるため、海浜植物イソスミレを対象に実生を異なる深さで砂に埋め、一定期間経過後、重量や形態を比較しました。その結果、浅く埋めた実生の多くは再び地上に現れ、葉や全体の重量は埋めなかったものと比べ大きく、また茎から不定根を伸ばしていました。こうした耐性・反応は砂丘での定着・生存に役立つ特性であり、本種の保全には砂丘の動的な環境を維持することが重要と考えられました。
砂をかぶった冬季のイソスミレ
(山陰海岸)

日本の半自然草原の保全において遺伝情報の役割を網羅的に解説

論文名:Contribution of genetic analyses to semi-natural grassland biodiversity conservation in Japan.
著者名:中濱直之, 倉田正観, 丑丸敦史
公表雑誌名:Plant Species Biology、38、158-170
doi10.11.111/1442-1984.12424
内容紹介:草刈りや火入れ、放牧など人間によって維持される草原は半自然草原と呼ばれ、とても生物多様性の豊かな生態系です。しかし、近年その面積は急激に減少し、そこにすむ生き物の多くが絶滅の危機に瀕しています。生き物の遺伝的多様性や遺伝構造の理解、草原管理による影響、遺伝的撹乱の予防、生態の解明、起源や歴史の解明など、遺伝情報は半自然草原の生き物の理解や保全に大きく役立っていることを、本論文では網羅的に解説しました。
半自然草原に生育する
キキョウ(絶滅危惧種)

自由集会「Ph.D.の育ちかた、育てかた」を実施して

論文名:How to supervise a Ph.D. student, and how to be supervised
著者名:京極 大助 ・ 川津 一隆
公表雑誌名:日本生態学会誌、 73巻1号、1-7、2023年
内容紹介:2017年3月に日本生態学会大会で自由集会「Ph.D.の育ちかた、育てかた」を実施し、生態学分野における大学院教育のあり方について議論を行いました。そのときの議論をまとめた論文です。博士課程の学生は様々な理由で悩みを抱きます。いっぽうで、指導教員は教育者としてのトレーニングを受けていないのが普通です。このような状況のなかで、より良い大学院教育のあり方を考えるための交通整理をした論文です。
大学院生はいろいろなことで悩みます

男性応募者のほうが女性応募者よりもフェローシップに採択されやすい:日本の研究助成機関の事例

論文名:Male applicants are more likely to be awarded fellowships than female applicants: a case study of a Japanese national funding agency
著者名:Daisuke Kyogoku ・ Yoko Wada
公表雑誌名:PLOS ONE、 18巻10号、e0291372、2023年
内容紹介:研究助成金やフェローシップの採否は、専門家による審査を経て決定されます。専門家による審査は科学を支える重要な仕組みですが、申請書に書かれた名前から推定される性別等が審査員の判断に影響を与えることがあります。日本学術振興会の特別研究員の男女別の採択率を比較したところ、女性応募者より男性応募者の方が採択率が高いことが分かりました。審査過程にバイアスがかかっている可能性があり、さらなる調査が望まれます。
詳細はこちらのページをご覧ください。→→https://www.hitohaku.jp/research/h-research/20231026news.html
女性研究者と男性研究者のイラスト。
どちらの方が優秀に見えるでしょうか。
なんとなく男性の方が優秀だと感じる
ジェンダーバイアスは多くの人がもって
います(イラスト提供:ヤマダマナミ)。

兵庫県におけるミズコバギボウシの初記録

論文名:A new locality of Hosta longissima Honda x H.sieboldii (Paxton) J.W.Ingram f. spathulata (Miq.)W.G.Schmid (Asparagaceae) from Hyogo Prefecture, Japan
著者名:高野温子・朝井健史・松本修二
公表雑誌名:植物地理・分類研究, 71: 51-55, 2023年
doi10.18942/chiribunrui.0711-06
内容紹介:本論文では、日本国内では愛知県・岐阜県・高知県・宮崎県から知られるミズギボウシとコバギボウシの不稔性雑種であるミズコバギボウシが兵庫県にも生育していることを明らかにしました。ギボウシの仲間は花姿の美しさから園芸的にも人気の高い植物ですが、しばしば雑種を形成することが分類を難しくしています。生育地での調査の他、他県の植物標本庫にもでかけて標本調査を行い、ようやく決着をつけることができました。
ミズコバギボウシの花

白亜紀中期のミャンマー琥珀から発見されたトコジラミ上科カメムシ類の新属新種とその異質なオス交尾器に関する示唆

論文名:A new remarkable cimicoid genus and species (Hemiptera, Heteroptera, Cimicomorpha) from mid-Cretaceous Burmese amber, with implications for its aberrant male genitalia
著者名:Kazutaka Yamada・Shûhei Yamamoto・Yui Takahashi
公表雑誌名:Fossil Record、 26巻1号、27-38、2023年
doi10.3897/fr.@.86784
内容紹介:ミャンマー北部に産する白亜紀中期(約9900万年前)の琥珀からカメムシ目トコジラミ上科の新属新種を記載しました。交尾器を含む外部形態を詳細に調べた結果、本種はムカシハナカメムシ科(絶滅科)に属すること、オス交尾器が原始的な形質と派生的な形質を併せもち、トコジラミ上科においてきわめて異質な形質状態であること、その構造から本種が外傷性授精(オス交尾器でメスの体に傷をつけて精子を注入する交尾)を行っていたことが示唆されました。
新属新種 Ecpaglocoris ditomeus(オス)

日本の太平洋岸における外来フジツボの緯度勾配に沿った遺伝的変異の欠如と時間的な安定性

論文名:Lack of a genetic cline and temporal genetic stability in an introduced barnacle along the Pacific coast of Japan
著者名:頼末武史
公表雑誌名:PeerJ 、10巻、e14073、2022年
doi10.7717/peerj.14073
内容紹介:東北以北の太平洋岸に定着している北米原産の外来種・キタアメリカフジツボを国内各地で採集し、遺伝子型(A-C型)を調べました。原産地では緯度勾配に沿って集団中の遺伝子型の割合が変化することがよく知られていますが、国内ではそのような変化が見られませんでした。また過去の文献データと比較すると、本種が発見された2000年代から現在にかけて遺伝子型の変化がないこともわかりました。これらの結果から、2000年代から現在に至るまで、国内の本種の起源は原産地の北部(カナダ~アラスカ沿岸)であることがわかりました。
キタアメリカフジツボの潮間帯上部(左)と中部(右)でのミトコンドリアDNAの遺伝子型の割合

アズキゾウムシの実験進化においてメスでのみ見られた再交尾率と交尾時間の応答

論文名:Female-limited responses in remating rate and mating duration in the experimental evolution of a beetle Callosobruchus chinensis
著者名:Daisuke Kyogoku・Shigeto Dobata・Rui Takashima・Teiji Sota
公表雑誌名:Journal of Evolutionary Biology、 36巻1号、309-314、2023年
doi10.1111/jeb.14141
内容紹介:繁殖機会をめぐる競争があると、特にオスで父性を確保するような適応が進化すると期待されます。ただしオスの適応はメスにとっては不都合なことがあります。ややこしいことに、オス間の競争は間接的にメスを健康にする可能性があります(優良遺伝子仮説)。健康なメスはオスの適応に対抗できるかもしれません。実験的に室内で昆虫のアズキゾウムシを進化させたところ、優良遺伝子仮説を支持するような交尾行動の進化がメスでのみ見られました。
アズキゾウムシの交尾

同種個体の微かな化学的痕跡はフジツボ幼生の着生を遅らせる

論文名:Faint chemical traces of conspecifics delay settlement of barnacle larvae
著者名:北出汐里・遠藤紀之・野方靖行・松村清隆 ・安元剛 ・井口亮 ・頼末武史
公表雑誌名:Frontiers in Marine Science 9巻、983389、2022年
doihttps://doi.org/10.3389/fmars.2022.983389
内容紹介:海洋生物のフシツボは交尾をして繁殖するため、同種個体が集まることが知られています。成体は岩盤などに固着して移動できないため、成体になる前のキプリス幼生が化学物質などを頼りに繁殖相手となる仲間がいる、生息に適した場所を探索します。キプリス幼生が探索の手がかりにする化学物質の一つとして、成体が分泌するフェロモン(WSP)が知られています。私たちの研究グループは、室内実験の結果を基に、このフェロモンが少しだけあると仲間がいる生息に適した場所が少し離れた場所に確実に存在するという情報となり、キプリス幼生がその場所の探索を継続するという仮説を提唱しました。
フジツボの成体個体が分泌するフェロモン(WSP)
を介したキプリス幼生の生息場所探索の仮説
(イラスト提供:伏見香蓮)

防風林の管理と景観は、チョウ類や開花植物の多様性維持に貢献している

論文名:Management and landscape of shelterbelts contribute to butterfly and flowering plant diversity in northern Japan
著者名中濱直之・速水将人・岩崎健太・新田紀敏
公表雑誌名:Ecological Research 37巻、780-790、2022年
doihttps://doi.org/10.1111/1440-1703.12342
内容紹介:防風林は国内では北海道東部などでよく見られ、農作物生産において重要な役割を担っています。この防風林を含めた景観の生物多様性保全効果を解明するため、チョウ類、開花植物を対象として調査しました。その結果、防風林の林縁、更新地、草地ではチョウ類や開花植物の多様性が高く、また林内を含めそれぞれの生態系で絶滅危惧種を含めた多くの生物が観察できました。このように、防風林とその周囲の様々な生態系が、生物多様性の維持に貢献することがわかりました。
北海道東部に位置する防風林

万葉集の植物に関する考察2:わすれぐさ

論文名:A study of plant name in "Manyo-shu"2: Wasuregusa
著者名:藤井俊夫
公表雑誌名:近畿植物同好会々誌、46号、41-43、2023年
内容紹介:この研究は万葉集に詠まれた植物について考察したものです。 万葉集で「わすれぐさ」(萱草)は4句が詠われています。この植物は現在のワスレグサ科の植物とされてきました。「萱草」を詠んだ句の解釈から漢字の誤記ではないかとの疑問を持ち、中国や韓国の繊維に利用される植物を調べました。その結果、「萱草」は「ワスレグサ」ではなく、「莞草」、日本名カンエンガヤツリとすれば、歌の情景に当てはまることがわかりました。
従来、わすれぐさ(萱草)とされてきたヤブカンゾウ

交雑により駆動される棲み分けの進化にオスとメスが果たす役割は異なる

論文名:Males and females contribute differently to the evolution of habitat segregation driven by hybridization
著者名:Daisuke Kyogoku ・ Ryo Yamaguchi
公表雑誌名:Journal of Evolutionary Biology、 36巻3号、515-528、2023年
doihttps://doi.org/10.1111/jeb.14156
内容紹介:理論研究です。不適応な交雑を避ける適応として棲み分けが進化する可能性があります。今回の研究ではオスとメスで棲み場所(植食性昆虫の食草など)の好みが別々に進化できる場合に何が起きるかを検討しました。メスがある程度オスの種を識別できる場合にはモデルの挙動がかなり複雑になり、交雑リスク以外にも性選択や連鎖不平衡を考える必要があることが分かりました。一見単純な棲み分けの進化の背後に隠れている複雑な因果関係が見えて来ました。
研究で明らかになった複雑な因果関係

モノテルペン-フランのハイブリッド分子の化学合成と付着生物阻害活性

論文名:Chemical synthesis and antifouling activity of monoterpene-furan hybrid molecules
著者名:高村浩由・木之下雄哉・頼末武史 ・門田功
公表雑誌名:​Organic & Biomolecular Chemistry 21巻、632-638、2023年
doihttps://doi.org/10.1039/D2OB02203F
内容紹介:フジツボやイガイなどの付着生物は船舶や発電所設備などに付着することで様々な環境的・経済的悪影響を及ぼすため、汚損性付着生物とも呼ばれています。モノテルペンやフランの構造を持つ化合物はこれらの汚損性付着生物の付着を阻害することが知られていました。今回の研究ではモノテルペンとフランの構造を両方有するハイブリッド分子を合成し、フジツボの付着を阻害するかどうかを実験検証したところ、ハイブリッド分子は高い効率で付着を阻害することが確認されました。今後、このようなハイブリッド分子を利用した付着防除剤などの開発に期待されます。
モノテルペン-フラン ハイブリッド分子


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