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ひとはく研究員の発表論文紹介(2022年)

南日本における萌芽林および人工林の植物の組成と多様性:生物多様性保全に向けて

論文名:Plant composition and diversity of broad-leaved coppices and conifer plantations in southern Japan: implications for biodiversity conservation
著者名:Asumo Kuroda・Tamotsu Hattori
公表雑誌名:Folia Geobotanica、57、21-35、2022年
内容紹介:古くから人間活動の影響を受けてきた温帯域において、里山林のような半自然林や植栽によって造られた人工林は、代償的な植生でありながらも、森林生植物の重要な生育場所として機能しています。本研究では鹿児島県種子島を調査地として、スダジイ萌芽林(里山林)とスギ人工林が照葉樹林構成種をどの程度保持しているか、空間スケールを考慮して調べました。その結果、多様性はいずれもスギ人工林で低く、里山林の人工林化は生物多様性保全の観点から避けるべきと考えられました。
下層植生が回復しつつあるスギ人工林

国内希少野生動植物種における保全遺伝学研究の基盤としての遺伝情報

論文名:Genetic information as a basis for conservation genetics of national endangered species of wild fauna and flora in Japan
著者名中濱直之, 安藤温子, 吉川夏彦, 井鷺裕司
公表雑誌名:​保全生態学研究、27巻、21-29、2022年
内容紹介:国内で特に絶滅の恐れが大きな生物は種の保存法で「国内希少野生動植物種」に指定され、様々な保護活動が実施されています。国内希少野生動植物種395種(2021年1月時点の指定種数)についてこれまで公表されている遺伝情報を調べました。その結果、哺乳類や両生類をはじめとする脊椎動物では40%以上の種で遺伝情報が蓄積されていたものの、昆虫類をはじめとする無脊椎動物や植物ではいずれも20%未満でした。今後はこうした分類群の格差の是正が必要となります。
ウスイロヒョウモンモドキ
兵庫県に生息する国内希少野生動植物種

水田雑草アメリカキカシグサ(ミソハギ科)の初帰化年の整理および四国・九州への新帰化

論文名:First naturalization year in Japan and new naturalization in Shikoku and Kyushu districts in Rotala ramosior (Lythraceae)
著者名:早川宗志・藤井俊夫
公表雑誌名:雑草研究、67巻、2号、61-63、2022年
内容紹介:この研究は日本に侵入した外来植物、アメリカキカシグサの最初の侵入時期を標本によって明らかにしました。既存の文献では、1993年と1997年の二つの説がみられ、混乱していました。標本の調査により、千葉県市川市の水田で採集された1986年の標本が見つかりました(大野景徳2435, 1986. Sep.05. CBM)。併せて、四国・九州への帰化年の検討も行いました。四国は2014年に、九州は2009年に侵入していたことが明らかとなりました。
アメリカキカシグサ
左:徳島初記録の標本、右:九州初記録の標本

タンガニイカ湖に生息するTelmatochromis temporalis(カワスズメ科;カワスズメ目)の新しい生態型

論文名:A new morph of Telmatochromis temporalis (Cichlidae; Cichliformes) from Lake Tanganyika
著者名:Tetsumi Takahashi
公表雑誌名:Hydrobiologia、848巻、3655-3665、2021年
内容紹介:従来、タンガニイカ湖に固有なシクリッドTelmatochromis temporalisには普通型(normal morph)と矮小型(dwarf morph)が知られており、生息環境の違いによって種分化が生じる生態的種分化の例として、注目されてきました。いっぽう、著者が現地で調査をしていると、それとは異なる第三の生態型が存在することを発見しました。既存の生態型よりも体高が低く、細長い形をしているため、痩身型(slender morph)と名付けました。痩身型は普通型と側所的に生息するため、この型も生態的種分化によって生じたのかもしれません。

T. temporalisの普通型(上)と痩身型(下)。両型は、異なる深さに生息する。

高精度に植物標本の自動判定を行うシステムの開発

論文名:Development of a system for the automated identification of herbarium specimens with high accuracy
著者名:白井匡人・高野温子・黒沢高秀・井上雅仁・田金秀一郎・谷本朋也・小金山透・佐藤平行・寺澤知彦・堀江岳人・萬代功・秋廣高志
公表雑誌名:Scientific Reports、12巻 8066、2022年
内容紹介:本研究では国内の大学・博物館が所有する植物標本デジタル画像54万点(うち、ひとはく標本は13.4万点)を用い、AIに植物標本の鑑定を学習させて日本産植物約2000分類群の自動判定を96%という高い精度で行えるシステムを構築しました。試行錯誤を重ねる中で、標本の質が良い(=植物体に虫食いや破損等がない)こと、そのような「良い」標本の画像が50枚以上得られること。が判定精度を高めることが分かりました。標本の蓄積と適切な管理は重要なのです。
AIが標本のどこをみているかを色で表した図
赤や黄色が強い部分が、よく参照されている

海岸の地中に生息するイソチビゴミムシにおける海流分散の可能性

論文名:Possible dispersal of coastal and subterranean carabid beetle Thalassoduvalius masidai (Coleoptera) by ocean currents
著者名中濱直之・岡野良祐・西本雄一郎・伊藤昇・松尾歩・陶山佳久
公表雑誌名:Biological Journal of the Linnean Society、135巻、265-276、2022年
内容紹介:イソチビゴミムシは自然海岸の真水が染み出す地中という特異的な場所に生息する昆虫で、環境省レッドリストで準絶滅危惧に選定されています。本研究では国内の分布調査を実施するとともに、遺伝解析により分布変遷の歴史を検証しました。その結果、兵庫県を含む5県で初記録となる生息地を発見できたほか、本種は日本の南西部から北東に向けて、海流によって長い時間をかけて分布を拡大させたことが示唆されました。
イソチビゴミムシの成虫写真
(岡野良祐氏撮影)

現在進行中の生態的種分化におけるマジック・トレイトの量的遺伝子座のマッピング

論文名:Mapping of quantitative trait loci underlying a magic trait in ongoing ecological speciation
著者名:T. Takahashi, A. J. Nagano, T. Sota
公表雑誌名:BMC Genomics、22巻、615、2021年
内容紹介:ある生物が異なる環境へ適応することによって種分化することを、生態的種分化といいます。またこの種分化において、環境へ適応した形質が生殖隔離に関係する場合、その形質をマジック・トレイトと呼びます。タンガニイカ湖に固有なシクリッドTelmatochromis temporalisでは、体サイズがマジック・トレイトとして働いて生態的種分化が進んでいると考えられます。本研究では、この形質の遺伝的基盤を調べ、少なくとも4遺伝子座が関係していることを明らかにしました。
タンガニイカ湖(下)に固有なT. temporalisの矮小型(上左)はシェルベッド(中左)で貝殻を住処とします。
普通型(上右)は岩場(中右)で岩の下の隙間を住処とします。

海浜植物イソスミレの種子休眠・発芽に及ぼす温度の影響
発芽フェノロジーと冬季温暖化への応答

論文名:Effects of temperature on seed dormancy and germination of the coastal dune plant Viola grayi: germination phenology and responses to winter warming
著者名:Asumo Kuroda・Yoshihiro Sawada
公表雑誌名:American Journal of Botany、109、237-249
内容紹介:温度は種子の休眠解除や発芽のタイミングに関わる重要な要因の一つです。そのため温暖化や気候変動は、散布された種子の発芽季節を左右すると共に、その過程を通じ個体群の動態や種の分布にも影響する可能性があります。本研究では、日本海沿岸を主な分布域とするイソスミレを対象とした発芽試験と、その生育地である砂丘の地温測定の結果から、冬季の温暖化と少雪化が本種の種子の休眠を長引かせ、発芽を遅らせる可能性のあることを示しました。
イソスミレの花と果実・種子

万葉集の植物に関する考察1:たまも

論文名:A Study of plants in Manyo-shu 1: Tamamo
著者名:藤井俊夫
公表雑誌名:近畿植物同好会々誌、45号、15、2022年
内容紹介:この研究は万葉集に詠まれた植物について考察したものです。 玉藻は万葉集では30首ほど詠まれ、美しい藻と解釈されてきました。玉藻を詠んだ歌の中で、生育環境、生活に利用される場面について描写した歌を検討したところ、いくつかの共通点が見つかりました。波の静かな内湾の潮間帯に生育し、春に磯で採集して貯蔵し、食用となる海藻であり、丸い浮袋をつけることから、ヒジキであると考証しました。
ヒジキ(12月に撮影)
春から初夏にかけて、浮袋が発達する

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