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兵庫県立大学附属中学校連携事業プロジェクト学習における絶滅危惧植物の発見報告について

1 主旨

 兵庫県立大学附属中学校が兵庫県立人と自然の博物館と共同で実施しているプロジェクト学習の一環として、大鳴渓谷(鞍居川上流、金出地ダムの上流部)においてコケ植物相の調査を実施したが,2021年10月14日の現地調査において絶滅が危惧されるコケ植物(環境省カテゴリーで絶滅危惧II類)とされるカシミールクマノゴケDiphyscium kashimirense (H.Rob.) Magombo(蘚類イクビゴケ科)の生育を確認した。その後、広島大学植物標本庫に保管されている立石幸敏蘚苔類コレクションを検討したところ、2012年10月6日に岡山県美作市滝宮で採集されたカシミールクマノゴケを確認することができた。今回見つかった場所はともに、従来知られていたカシミールクマノゴケの分布域から大きく離れており、植物地理学上注目に値する発見である。

2 分布上・保全上の特徴

 カシミールクマノゴケは蘚類イクビゴケ科イクビゴケ属の蘚類で、パキスタンのカシミール地方で採集された標本に基づき、新種Theriotia kashimirensis H.Rob.として記載され、その後遠く離れた日本から報告された。
 一方、日本国内では福島県南部から鹿児島県屋久島にかけての主に太平洋岸沿いに広く分布し、これまでに福島県、栃木県、埼玉県、東京都、神奈川県、静岡県、愛知県、三重県、奈良県、徳島県、高知県、宮崎県、そして鹿児島県から報告され、近年も各地から記録されている。しかしながら、兵庫県内はもとより北陸から近畿北部、中国地方、そして九州北部にかけての地域において、カシミールクマノゴケが報告されるのは今回が初めてである
 カシミールクマノゴケは,全国レベルとなる環境省カテゴリーにおいて絶滅危惧II類(VU)とされ、都道府県単位のレッドデータにおいても、福島県・埼玉県・神奈川県で絶滅危惧I類に,栃木県・奈良県で絶滅危惧II類とされている。

3 兵庫県における調査地の概要と発見に至った経緯

 今回報告する産地の1つである大鳴渓谷は、兵庫県赤穂郡上郡町金出地と佐用郡佐用町大畑にまたがる区域にあり、周囲を落葉樹二次林と川沿いの杉植林地に囲まれた渓谷である。特徴的な植物群を有する阿哲地域の東隣に位置した非石灰岩地域である。この場所からはこれまでに高等植物のオチフジやマヤランなどの希少植物が見つかっており、貴重な植物種が多く報告されている。また、大鳴渓谷は、兵庫県レッドデータブックには「136 金出地渓谷・大鳴渓谷」の登録名称で地形・地質部門でランクCとして掲載されている(兵庫県レッドデータブック2011)。
 大鳴渓谷は湿度が適度に保たれた蘚苔類の生育に適した場所であったが、残念なことに金出地ダムの建設によって核心地域の植生はすべて水没して失われてしまった。また貯水池の開水面から渓谷に吹き込む風の増加とシカの食害による下層植生の喪失により、渓谷内は以前よりも乾燥化が進行しており、蘚苔類の生育への影響が懸念される状況である。
 大鳴渓谷における蘚苔類植物の生育状況の現状を評価するため、兵庫県立大学附属中学校が実施するプロジェクト学習の一環として、2020年以来6回にわたる現地調査を実施してきたが、その結果、渓谷沿いのわずか600mほどの範囲に合計103種(蘚類77種、苔類26種)の蘚苔類を確認することができた。今回さらに、これまでに知られている生育地から大きく離れた場所でのカシミールクマノゴケの生育を確認できたことは、大鳴渓谷が依然として貴重な植物の生育環境となっていることを強く示唆するものであると考えられる。岡山県美作市滝宮の産地については詳細不明だが、今回の産地と同様、狭い渓谷内の岩壁上に生育していることがラベル情報から読み取れる。

4 報告者

 伊藤葛1・大隅志乃1・駿河 舞1・西脇千陽1・廣島唯楓1・米本春樹1・上田啓太郎2・中島健太朗2・秋山弘之3・山口富美夫4
 1兵庫県立大学附属中学校3年生
 2兵庫県立大学附属中学校同教諭
 3兵庫県立大学自然・環境科学研究所/兵庫県立人と自然の博物館
 4広島大学大学院統合生命科学研究科

5 担当

 兵庫県立人と自然の博物館 自然・環境評価研究部 秋山 弘之

6 参考資料

20211209news-fig1.jpg 20211209news-fig2.jpg
図1 群落の様子。強く岩に固着している。 図2 図1拡大

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