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ひとはく研究員の発表論文紹介(2021年)

中山間地域での企業参入による経営耕地面積の拡大要件
-兵庫県養父市における農外参入企業11社への聞き取り調査より-

論文名:Requirements for Accumulation of Farmland by Non-agricultural Corporations that Recently Entered Farming in Mountainous Areas: Case Studies of Histories of Corporate's Entry into Farming in Yabu City, Hyogo, Japan
著者名:衛藤彬史・衣笠智子・安田公治
公表雑誌名:農林業問題研究、57巻4号、2021年
内容紹介:農家の高齢化や耕作放棄地の拡がりを背景に、担い手として期待の高まる民間事業者ですが、農業分野への参入後に農地面積を拡大(事業者に農地を集約)するには、地元住民の作業協力が欠かせないことを、市内に参入した11の事業者への聞き取りを通じて明らかにしました。結果より、新たな担い手が耕作面積を拡げるには、畦畔や水路の管理作業を担う団体の組織化など、地域での体制づくりに向けた対策が両輪で求められるといえそうです。
(2021年9月発行)
事業者の酒米生産により水田復旧した能座地区の棚田
(写真:毎日新聞2017年5月16日付朝刊、兵庫地方版)

東アジア・東南アジア産シダレウニゴケ(ウニゴケ科)とその近縁種の再検討

論文名:Re-examination of the Symphyodon perrottetii (Symphyodontaceae) and related species in East and Southeast Asia
著者名:Hiroyuki Akiyama・Rimi Repin・Monica Suleiman
公表雑誌名:Hattoria 12, 51-92, 2021年
内容紹介:東南アジアに広く分布するシダレウニゴケSymphyodon perrottetii(ウニゴケ属,蘚類)とその近縁種について、各地で著者らが採集したサンプルと世界の標本館に保管されている標本を用いて、形態の詳細な比較と分子系統学的解析を用いて分類学的再検討を行いました。その結果、形態が多様で広域分布する本種には、それぞれ固有の分布域を持つ、新種を含む少なくとも4種の、お互いに形態がよく似た種複合体を形成していることがわかりました。
(2021年9月発行)
今回新種として記載された中国産ウニゴケ属植物

私見:万葉集(巻16-3834)の解釈

論文名:Personal Opinion: Interpretation of Manyo-shyu (roll 16-3834)
著者名:藤井俊夫
公表雑誌名:近畿植物同好会々誌、44号、37-39、2021年
内容紹介:万葉仮名で書かれた原文を読んでいたところ、文節の区切り方や漢字の当てはめ方がおかしいのではと気づきました。「成棗 寸三二粟嗣 延田葛乃 後毛将相跡 葵花咲く」は「梨、棗の花が咲く頃から、葛がつながるように、葵花が咲く頃にも会いたい」と解釈しているが、次のように解釈してみました。「梨、棗、黍に粟、信太葛の葉神社 後逢えば葵の花が咲く」と読み、「棗を貢いで信太の森葛の葉神社で祝言を挙げましょう」と解釈できます。
(2021年9月発行)
読み人、出典とも不明だが、葛の葉神社に伝わる和歌

保全遺伝学の材料として重要な博物館標本

論文名:Museum specimens: an overlooked and valuable material for conservation genetics.
著者名中濱直之
公表雑誌名:Ecological Research 36巻, 13-23. 2021年
内容紹介:生物多様性の喪失が世界的な問題となっている現在、その保全のための研究は重要な課題とです。この論文では、遺伝子情報を用いて生物多様性を保全する研究分野 (保全遺伝学) に、博物館標本が大きく役立つことを紹介しています。過去に採集された標本の遺伝子を調べることで、遺伝的多様性や個体数の時間的な変化など、これまで解明が難しかった疑問を解明することができます。この技術により、今後保全遺伝学はますます進展することが期待されます。
(2021年9月発行)
ひとはくには、こうした標本が190万点程度収蔵されています

生態学が上手くいかないとき:どのように繁殖時の相互作用が多種共存を促進するか

論文名:When ecology fails: how reproductive interactions promote species coexistence
著者名:Gómez-Llano, M., Germain, R.M., Kyogoku, D., McPeek, M.A., Siepielski, A.M.
公表雑誌名:Trends in Ecology & Evolution、36巻7号、610-622、2021年
内容紹介:なぜ沢山の種が野外で共存できるのでしょうか?これまでは個々の種が異なる環境に適応している(得意なことが種ごとに違う)可能性が重視されてきました。しかし近年、繁殖行動が共存に影響している可能性が指摘されるようになってきました。この論文では、現在までに提案されている仮説や実験結果などを整理し、今後どういった研究が必要であるかを提案しました。学問の交通整理とも呼べるこうした論文は「総説」と呼ばれるタイプの論文です。
(2021年7月発行)
共存に影響しそうな繁殖行動の例

植物標本デジタル画像化の手法とOCRによるラベルデータ自動読み取り手法の開発

論文名:Developing new methods for digitization of herbarium specimens and electronic data capture adjustable Japanese herbaria.
著者名:高野温子・堀内保彦・青木滉太・藤本悠・三橋弘宗
公表雑誌名:植物地理・分類研究、 68巻2号、103-119、2020年
内容紹介:植物標本のデジタル化とインターネット公開は、世界中の博物館で行われています。日本の植物標本デジタル化はこれまで大判スキャナを使用する方法が主流でしたが、今回ミラーレス1眼カメラを使用して、高速にまた簡単に高品質の画像が撮影可能な装置を作成しました。得られた画像の保存方法、ラベルデータをOCRテキスト抽出する方法についても詳述しました。
(2021年7月発行)
ひとはくの植物標本撮影装置

苔類ジャゴケ属(ゼニゴケ目,ジャゴケ科)の系統再検討

論文名:Phylogenetic re-examination of the genus Conocephalum Hill. (Marchantiales:Conocephalaceae)
著者名:Akiyama, H. & Odrzykoski, J. R.
公表雑誌名:Bryophyte Diversity and Evolution 42 (1): 1-18. 2020
内容紹介:この研究は,世界に分布するジャゴケ属について調べたものです.ジャゴケConocephalum conicumは,以前は世界に1種だけがあって,これが広く北半球に分布すると考えられていました.遺伝子の塩基配列の違いに基づき,ジャゴケ属には世界で少なくとも6種があり,形態でも識別されることが明らかとなりました.日本にはこのうちの4種が分布しています.さらにこれまで同じジャゴケ属とされたヒメジャゴケが別属Sandeaであることもわかりました.
(2021年4月発行)
世界のジャゴケ属植物たち.AとBは日本で一番良く見かけるオオジャゴケです.

博物館における総合的な新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン策定の提案

論文名:博物館における総合的な新型コロナウイルス感染症対策ガイドライン策定の提案
著者名:橋本佳延・鬼本佳代子・丸山啓志・高尾戸美・邱君妮
公表雑誌名:博物館研究 56(2)、25-28、2021年
内容紹介:日本の多くの博物館が参照している新型コロナウイルス感染症拡大予防ガイドラインは健康被害の回避といった直接的な影響を緩和する対策については触れられていますが、感染症対策によって生じる間接的な影響や博物館の持つ価値う失わせるような影響についての観点が欠落しています。本研究では、対策の副作用、科学的対応、社会的包摂性、リスクコミュニケーション、博物館経営の持続可能性、野外活動での対応の検討などガイドラインに新たに加えるべき視点を整理し、具体的な記述内容について提案しました。
(2021年4月発行)
図 感染症ガイドラインに望まれる追加の視点

日本固有種かそれとも日中の隔離分布種か? オチフジ(シソ科)に関する研究

論文名:A narrow endemic or a species showing disjunct distribution? Studies on Meehania montis-koyae Ohwi (Lamiaceae)
著者名:A.Takano, S.Sakaguchi, Pan Li, A.Matsuo, Y.Suyama, G.H.Xia, X.Liu, Y.Isagi
公表雑誌名:Plants 9巻,1159, 2020年 DOI:10.3390/plants9091159
内容紹介:本論文は、日本国内では兵庫県にのみ現存がしられる希少種オチフジが2011年に中国から新産報告されたことを契機に、日中のオチフジを同種とするべきかどうか、核遺伝子座の塩基配列やNGS(MIG-seq)を用いた分子系統解析、集団遺伝解析、分岐年代解析、および日中の植物標本庫での標本調査に基づいて検討しました。結果、日中のオチフジは中新世後期に分岐しその後遺伝的交流がないこと、明瞭な形態的差異がみられることから別種と結論しました。
(2021年4月発行)
日本のオチフジ

性選択はオス形質とメス形質の進化を介して産仔数を増加させた

論文名:Sexual selection increased offspring production via evolution of male and female traits
著者名:Daisuke Kyogoku、 Teiji Sota
公表雑誌名:Journal of Evolutionary Biology、34巻3号、501-511、2021年
内容紹介:この研究では昆虫のアズキゾウムシを21世代にわたり実験的に進化させました。その結果、オス同士が繁殖機会をめぐって競争すると、オスの性質だけではなくメスの性質も進化し、メスが残す子孫の数が増加することが明らかとなりました。ほかにもオス、メスともに体が大型化するなどの進化も見られました。オス同士の繁殖機会をめぐる競争はさまざまな分類群で広く見られるため、同様の現象はさまざまな種で見られるものと期待されます。
(2021年4月発行)
実験に用いたアズキゾウムシ

托卵ナマズによる水中産卵シクリッドへの托卵

論文名:Brood parasitism of an open-water spawning cichlid by the cuckoo catfish
著者名:Tetsumi Takahashi ・ Stephan Koblmüller
公表雑誌名:Journal of Fish Biology, 96: 1538-1542
内容紹介:托卵はカッコーなど鳥類では一般的ですが、それ以外の脊椎動物ではほとんど見られません。唯一の例外が、タンガニイカ湖に固有な托卵ナマズです。このナマズは、口内保育を行うシクリッドが湖底に産卵し、その卵を口内に入れる際に、自分の卵を紛れ込ませます。湖底での産卵が托卵するのに重要なのですが、なぜか湖底で産卵しないシクリッドの口内からも、托卵ナマズの稚魚が見つかりました。どうやって托卵したのかは不明ですが、新たな生態の発見ということで発表しました。
(2021年4月発行)
托卵された親魚(上)、その稚魚たち(下左)、そして親魚の口内にいた托卵ナマズの稚魚(下右)


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