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お花畑の保全は、植物多様性の保全につながるのか―文化的サービスと生物多様性の保全を両輪で推進するための計画―

お花畑の保全は、植物多様性の保全につながるのか
―文化的サービスと生物多様性の保全を両輪で推進するための計画―

発表のポイント

  • 観光資源として有用なお花畑(文化的な生態系サービス)を保全することが、植物の多様性保全に貢献していることを明らかにしました。
  • お花畑の保全のみでは、季節性や花色などを考慮した植物の機能的多様性を十分に保全できないことも同時に示し、保全施策の提案を行いました。
  • 保全対象について、異なる観点を持ち施策を実施することが、さらなる保全効果を生み出すと期待されます。

発表者

 内田 圭(東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構 助教)
 小山 明日香(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所 主任研究員)
 尾関 雅章(長野県環境保全研究所 自然環境部 主任研究員)
 岩崎 貴也(神奈川大学理学部生物科学科 特別助教)
 中濱 直之(兵庫県立大学自然・環境科学研究所 講師/兵庫県立人と自然の博物館 研究員)
 須賀 丈(長野県環境保全研究所 自然環境部長)

発表概要

 東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構の内田圭助教らは、長野県霧ヶ峰において、ニッコウキスゲ(別名ゼンテイカ)を保全するために設置された大規模な防鹿柵による植物の多様性の保全効果を検証しました。長野県霧ヶ峰では、シカの食害を起因としてニッコウキスゲなどの植物が急激に減少しており、お花畑(文化的な生態系サービス)と生物多様性の両面を同時に保全するための計画検討が急務となっています。
 研究の結果、柵の設置により開花植物が維持されており、大きな保全効果が確認されました。観光資源として有用なお花畑(文化的な生態系サービス)を保全することが、植物の多様性を維持することに貢献していることが明らかとなりました。ただし、花色や開花季節などの文化的サービスに関わる要因を加味した植物の機能的多様性の解析結果から、現在の保全施策では十分に保全できていない種群も認められました。防鹿柵を設置するなど保全計画の策定の際には、本研究のように目的とする保全対象の観点を変え、施策を追加・改善していくことが、さらなる保全効果を生み出すことを提案しました。

発表内容

 近年ニホンジカが全国的に増加しており、食害などの植生への影響により、全国各地で植物の多様性が急激に減少しています。こうしたシカの多い地域における生物多様性の保全は喫緊の課題となっていますが、草原生態系における大規模な防鹿柵による保全効果の検証は未だ少なく、現状の把握が喫緊の課題となっています。霧ヶ峰ではニッコウキスゲのお花畑が観光資源として重要ですが、シカが特に好んでニッコウキスゲを摂食することから、お花畑の保全計画の検討が進められています。
 本研究は、長野県霧ヶ峰の草原生態系において、ニッコウキスゲのお花畑の保全(人間が享受してきた文化的な生態系サービスの保全)を目的とした大規模な防鹿柵の設置が(図1)、草原に生育する植物の多様性保全へおよぼす効果を検証しました。検証の際には、植物の多様性の指標として、開花数および植物種数のみならず、開花季節や花色といった植物の機能を加味した機能的多様性への効果も同時に検討しました。本研究で用いた植物の機能的多様性は、これまで種数や開花数であらわすことの難しかった文化的サービスや生物多様性に関わる情報を指標化したものと言えます。例えば、白花種が10種咲いている草原と白色および黄色の種がそれぞれ5種ずつ咲いている草原では、草原の持つ文化的サービスや生物多様性の価値が異なるといえます。さらに、現在はニッコウキスゲの保全を目的とした防鹿柵が設置されていますが、植物種数や植物の機能的多様性を保全するためにより適切な指標種の存在を探索するため、指標種解析を実施しました。
 結果から、植物の開花数や種数は防鹿柵により保全されていました(図2)。特に開花数は、柵内で柵外の3倍ほどの数が確認され、ニッコウキスゲでは約300倍の違いが確認されました。このことは、ニッコウキスゲを保全すること(お花畑を保全すること)が植物の多様性を維持することに繋がるという頑強な証拠を示していると考えています。一方で、開花季節や花色などの植物が持つ機能的な情報を加味した植物の機能的多様性は、植物種数や開花数と相関しておらず、ニッコウキスゲの花数とも関連性が認められませんでした。このことから、植物の機能的多様性を保全していくためには、現在の保全計画に対して追加施策が必要であろうことを提案しました。指標種解析の結果から、植物の機能的多様性を保全するためには、オミナエシ、オオヤマフスマ、ワレモコウなどの種(図3)を指標として防鹿柵を設置することが、今後さらなる保全効果を生み出すと期待されます。
 本研究の結果は、人間が享受してきた文化的な生態系サービス(ここでは、お花畑)を保全することが、植物の多様性を保全することに意義ある活動であることを示しました。世界的にも、人間を惹きつける草原や景観を保全する際に、指標種を選定する動きがあります。そういった魅力のある植物(指標種)を保全することは、周辺に一緒に生育している植物種に対しても保全効果を生み出すことが示されました。
 さらに本研究は、保全対象について異なる観点を持つことで、さらなる保全効果を生み出す可能性を示しました。植物の種数のみならず、開花季節や花色など生物多様性が生み出すさまざまな機能的な側面や、さらには文化的サービスに関連する生物多様性の保全についてさらなる検討が必要な場面もあります。その計画段階では、どのような基準を基に防鹿柵を設置するのか、どういった指標を目的として対策を立てるのか、検討が続いています。本研究は今後の生物多様性保全策の一助となる情報を提供しました。
 本研究成果はイギリス夏時間2020年8月25日に、国際科学誌「Biological Conservation」の電子版に掲載されます。
 なお、本研究の一部は、第28期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成を受けて行われました。

 【資料】
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図1 霧ヶ峰高原の防鹿柵、左写真:ハイカーの右側(柵内)には保全されたニッコウキスゲ(黄色花)が咲いているが、柵外(左側)にはほとんど咲いていない。右上写真:右側が柵内で左側が柵外、右下写真:霧ヶ峰車山を望む

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図2 開花植物の種数と開花数の柵内外の比較(図中の*は統計的に有意な差があることを示している)

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図3 写真で示したような種を指標として防鹿柵を設置することで、草原の季節的な変化や様々な色の花を保全できる可能性がある。左からオミナエシ、オオヤマフスマ、ワレモコウ

発表雑誌

 雑誌名:Biological Conservation(GMT8月25日午後3時オンライン発表)
 論文タイトル:Does the local conservation practice of cultural ecosystem services maintain plant diversity in semi-natural grasslands in Kirigamine Plateau, Japan?
 著者:Kei Uchida*(責任著者), Asuka Koyama, Masaaki Ozeki, Takaya Iwasaki, Naoyuki Nakahama, Takeshi Suka
 DOI番号:https://doi.org/10.1016/j.biocon.2020.108737
 アブストラクトURL:https://doi.org/10.1016/j.biocon.2020.108737

問い合わせ先

 兵庫県立大学自然・環境科学研究所 講師
 兵庫県立人と自然の博物館 研究員
  中濱 直之(なかはま なおゆき)

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