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感謝!御礼!105点!



ワシントン条約の附属書Iにあるタイマイの剥製(左)と、その甲を加工して作った鼈甲製品(右)。国内法では両者とも規制対象から外されている。

 前号の編集後記で紹介したワシントン条約関係の寄贈品の申し込みはその後も続き、さらにそのことが新聞の記事になりました(朝日、平成2年12月1日朝刊)。おかげで寄贈品は105点(寄贈下さった方は35名)に達しています。


寄贈品内訳
動物名(部分を含む)剥製現物加工品ワ条約との関係
アフリカゾウ 象牙     1   2324
アフリカゾウ 尾毛   
インパラ   なし
グラントシマウマ  なし
アンテローブ類* 角   △II
ヒョウ  
ジャコウネコ類*   △I〜III
マングース類*   なし
大型哺乳類*   
ココノオビアルマジロ   なし
センザンコウ類*   △I〜III
ハイラックス類*   なし
ツミ   II
ノスリ   II
オウサマペンギン   なし
オオフウチョウ   II
タイマイ(鼈甲)  3841I★
ワニ類*10 19II(△I)
トカゲ類*   △I〜II
コブラ類*   △II〜III
合 計2471 105I−4,II−4

I、II、III:それぞれワシントン条約の附属書I、II、IIIに掲載されているもの
△I〜III:種名が未同定で、そのグループにI〜IIIを含む場合
*:種名未同定     ★:日本では保留しているもの

 その内容は上の表のとおりです。ワシントン条約の附属書に載っていないものもありますが、多くは博物館の資料として役立つものです。一番多いのがタイマイの甲を細工した鼈甲製品です。タイマイは附属書Iに掲載されているものの、日本では古くから伝統工芸品として商品取引されており、国内産業を保護するため、条約の適用を留保しています。国内の譲渡規制法でもタイマイは適用から外されています。この法律は生体以外のものについては、剥製と標本が規制対象となり、毛皮・皮・角・甲などの特定の部分だけのものは該当しません。また、この譲渡規制法の対象種は、原則として附属書Iに記載されているものだけで、IIとIIIについては何の規制もしませんので、寄贈して頂いたものの大半は国内での登録の必要はありませんし、取引・譲渡にも規制はうけないことになっています。しかし、ワシントン条約では譲渡規制法にかかわりなく「部分」だけのものや附属書II,IIIも規制対象になっていますから、外国との間で輸出入する場合には(2番目に多い象牙の製品などはもちろん)輸出許可書・輸入許可書が必要となります。
 なお、ワシントン条約では動物だけでなく、植物についても附属書に掲げていますが、寄贈品に植物がなかったので、ここでは動物の紹介だけになっていることにご注意下さい。

アフリカゾウの象牙製品。
第7回締約国会議(1989.10.9〜20、スイス・ローザンヌ)で附属書IIからIに移行されたが、一部をIIへ戻すための検討方法を次の会議までに確立するという条件が加わり、また、7か国が留保を付した。象牙の最大消費国といわれている日本は留保しなかった。


ノスリの剥製。
ワシ・タカ類もネコ科の動物同様、食物連鎖の上位を占めるため、ワシントン条約の附属書I・IIに全種が載るほど減少している。


オオフウチョウの剥製。
フウチョウ科は18属43種の全部がワシントン条約の附属書IIに掲載されている。別名ゴクラクチョウで、オスの羽は人間の装身具に用いられる。



ワシントン条約とは

 地球の歴史の中でもっとも後から登場した部類に入る人間が、他の生物と同様、生きるための努力をした結果、多くの他の生物を絶滅させてきています。そして、このまま放っておくと、どんどん増え続ける人間は、さらに多くの生物を絶滅させるに違いないので、とにかく緊急に「ささやかな自己規制」をしようということになり、1973年にアメリカ合衆国のワシントンで調印されたのが「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」です。発効したのは1975年(昭和50年)で、第1回の締約国会議は翌年開かれました。正式名は長いので普通「ワシントン条約」と略称し、英名の頭文字をとってサイテス(CITES)ともよびます。
 この条約では規制される生物名を附属書に列記していくのが特徴で、附属書は3ランクに分けられています。附属書Iは絶滅の危機にある生物のリスト(約7百種)。ここに挙げられた生物種の取引は原則的に禁止されており、例外的な場合でも輸出許可書と輸入許可書がなければ国際間の取引はできません。附属書IIは国際取引を規制しなければ将来絶滅の危機を迎えそうな生物のリスト(約3万4千種)。この生物の取引には輸出許可書が必要です。附属書IIIは締約国のうち自国の管理内で規制し、他国の協力を必要とする生物のリスト(243種)。この取引には輸出許可書または再輸出証明書が必要になります。
 締約国会議はだいたい2年ごとに行われ、附属書への動植物の種名を追加していますが、逆に危機を脱して削除される種名がほとんどないのが悲しい現実です。平成3年1月の段階で、締約国は109になっています。日本は昭和55年11月から適用しました。
 さて、このワシントン条約では、多くの国が加盟しやすいようにという配慮から、各加盟国で条約の規制を受けない留保措置が取れるようにしています。日本ではタイマイやクジラ類など取引が禁止されている附属書Iの10種を現在留保しています。留保はいつでもやめることができ、日本はこれまでにイリエワニなど4種の留保を撤回しましたが、附属書Iの種を多く留保している国という国際的な非難があります。
 日本では密輸や輸入後の国内取引を規制するため「絶滅のおそれのある野生動植物の譲渡の規制等に関する法律」が昭和62年12月1日から施行されました。しかし、規制は「譲渡」または引き渡しに限られ、対象は附属書Iのみ、さらに、加工品は規制対象から外していますので、個人が所有しているものについては対象にされません。
 今後国内法は次第に整備されていくでしょうが、それがしっかりしたものになるには、業者はもちろん私たちも、ともに地球上で生活している生き物への「正しい理解」と「愛」が必要になってきます。


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Copyright(C) 1998, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1998/03/27