まえに戻る 目次へ つぎへ進む  


☆海外の調査から☆


ヨーロッパの博物館事情

指導主事 江崎 保男

 フランス語で博物館、美術館にあたるのはMuseeもしくはMuseumです。この2つの言葉の違いが前者が展示をみせるのを本務とするのに対し後者がそうではないことにあると知ったのはパリの国立自然史博物館を訪れてスタッフの一人と話をしたときのことでした。当の国立自然史博物館はMuseumであって、数ある研究部門のうちの一部が展示を公開してはいるものの、あるものはごく小規模であったり、前世紀の遺物みたいな物であったりして、特別に展示に力を入れているとは思われず、まさにMuseumと納得した次第でした。この場合は研究所の大規模集合体といった表現の方がぴったりで、日本語の「博物館即展示」のイメージとは違っていました。
 このことは、植物園という言葉についても同様です。ロンドン郊外にあるキュー植物園は広大な敷地に温室を含む生きた植物の展示がある点では、その広大さを除けば、私たちの思う植物園どおりなのですが、その背後にはこれらの展示を支える膨大な数のスタッフと、展示からかなりの程度に独立した巨大な研究組織が存在していました。このように、世界の代表的な博物館・植物園といったものは必ず強力な研究組織をかかえているものであり、日本の諸施設はたいていこれらの組織の一部をひき写しただけになっているのではないかと強く思った次第でした。

 世界一の自然史博物館として有名な大英自然史博物館も巨大な研究組織をかかえています。ここでは、3百名もの研究者が5部門(鉱物学・古生物学・植物学・動物学・昆虫学)に所属して研究を行っており、その内容は膨大なコレクションをもとにした分類学・進化学にとどまらず、世界各地をまたにかけた生物地理学・生態学・自然保護・疫学等の幅広い範囲に及んでいます。ただし、ここの特徴はナチュラルヒストリーの殿堂として社会教育にも力をいれていることで、展示・教育専門のスタッフが研究者とはまったく別に日夜知恵をふりしぼって教育や展示に取り組んでいました。展示では、日本でいえばかなり高度な内容と思われそうなことを非常にわかりやすく、かつ面白く展示しているのには大いに感心させられました。かなりの部分が最近の展示替えにより映像機器や模型を使った最新のものに変身しており、ディズニーランドかと見まちがうばかりのセクションもありますが、その一方で昔ながらの化石や生物標本の伝統的な展示法がこれらの中に適度に散りばめられてちゃんと生命を保っていたり、「10年ほど前の最新展示」があったりして、さすが多様性を認めるお国柄とこれまた感心させられました。Publicpg:鍄\、g Service(教育・展示を含む来館者サービス部門)の副部長クラーク博士の「科学者にすぐれた展示を望むのは無理だ」という言葉にもプロからアマまでレベルの高い、かつ層の厚いナチュラルヒストリーの伝統をもつ国ならではの説得力を感じました。
 このPublic Serviceを含め博物館の顔(展示・教育)を裏方から支えている研究者以外のスタッフの質と量のすごさ(約450名)と分業体制も大英自然史博物館の特徴の一つでしょう。Public Serviceと研究部門のほかには Advertisement & Development と Administrative Serviceという二部門があります。前者は博物館の宣伝・集客活動や財源の確保等にあたるいわば広報・発展部門、後者はその他すべて(財務・ミュージアムショップの経営・出版業務・飲食サービス・セキュリティ・建物管理等)を扱ういわば総務部門です。これらの部門のすごさと分業の徹底ぶりは、広報部門が館独自のプレス(報道)セクションを持っていること、あるいは別のセクションでは館の宣伝パンフレットのスポンサーになってもらうべくいろいろな企業と交渉することを仕事とするスタッフがいるといったことからも伺い知ることが出来ます。
 大英自然史博物館の研究者大量首切りは昨年、世界的な話題となりました。副館長のピーク博士(動物学)は、館が現在、従来の分類グループ毎の研究体制から研究テーマを軸とした、より機能的な体制へと脱皮をはかっており、首切りはその必然的な結果として起こっているのだ(もちろんその背景には財政的な圧迫がある)と説明してくれました。これらの変化は、上に述べた館全体の非常に機能的な体制と共に、現代の自然史博物館のおかれている状況、即ち「自然史博物館が次世代に残すべき自然史資料を保管しているというだけで存在を許された時代は終わった」ということを、端的に物語っているのではないでしょうか。
 1990年10月21〜11月10日まで、ロンドンとパリで各施設を訪問しましたが、各施設のスタッフには公私両面で非常に親切にして頂き、今回のような調査では人と人とのつながりがもっとも重要であることを深く感じました。ここに述べた以外にもお国柄の違いや都会化と博物館の関係等いろいろと興味深く学ぶところの多い旅でした。

   <写真:大英自然史博物館の正面玄関>

まえに戻る 目次へ つぎへ進む  



Copyright(C) 1998, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1998/03/27