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準備室員の研究紹介

−古谷裕氏と放散虫−



 準備室にはいろいろな分野の研究者が集まってきています。それぞれ分野の違う人たちが自分の意見を交換しあえば、新しい発見があったり、新しい視野が開けたり、いろいろ有意義なことが予想されるのですが、何しろ準備室というところはやたらと開館に向けての「雑事」があって、のんびり意見交換などしていられません。近くで仕事をしている各室員がどういう研究をしているのか、相互にあまりわかっていない状態です。
 そこで、本誌の紙面に余裕のある時は室員の研究を紹介し、室員の相互理解とともに、本誌を読まれる方々にも○○の専門家がいるという情報を提供したいと思います。
 トップは、研究員中最古参の野田睦夫氏が四月から転出しましたので、服部保氏の次に古い古谷裕氏です。
 古谷さんの専門分野は古生物学(苗字のイメージに合致)で、研究対象は化石ですが、肉眼ではちょっと形が判別できないくらい(0.1〜0.3mm)の微化石を研究しています。
 その微化石というのは原生動物の放散虫。現在も海に住んでいますが、化石はカンブリア紀から知られ、現在に至るまで示準化石(その時代を示す標準的な化石)として有効とされています。原生動物というと、ゾウリムシやアメーバを思い起こして、化石なんかになるんだろうかと思ってしまいますが、放散虫は二酸化珪素を分泌して殻をつくりますので、この殻が化石になりやすいのです。普通、化石は出現する地層が限定されることが多いですが、放散虫はチャート、凝灰岩、頁岩、泥岩、石灰岩などから広く発見され、化石自体が小さいですから、わずかな資料からでも示準化石が見つかるという利点があります。
 この利点は地層が複雑に入り交じっているような場合に生きてきます。こういうとき、一部の地層からしか出ない大型化石で誤った時代決定をしてしまいがちなのですが、放散虫化石は詳細な分析を可能にするのです。こういうことがわかってきて、今から十年ほど前から、放散虫研究のフィーバーが起こったそうです。
 中生代以降の放散虫を対象にする研究者が多い中、古谷さんはもっと古い古生代のシルル紀やデボン紀の放散虫を研究しています。とくに岐阜県福地の資料を詳細に調べ、昨年末名古屋大学に提出、めでたく平成二年二月六日付で理学博士を授与されました。忙しい準備室の仕事を超人的にやりくりして学位を取得した努力に、学位で苦労したことがある人ほど大きな拍手を送っています。

   <写真:グッドバディウムの一種。下の線は10ミクロンを示す。>


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Copyright(C) 1998, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1998/03/27