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収蔵資料の中から



 現在、博物館には購入、寄贈、研究調査などによりさまざまな資料が集積されています。その中からいくつかご紹介します。最初の海藻三点は、神戸大学理学部附属臨海実験所の榎本幸人先生が昨年の調査で提出下さった標本の中から選びました。内容も榎本先生の文章から構成しています。

スサビノリ(紅藻類、ウシケノリ目、ウシケノリ科、アマノリ属)
 十二月〜三月に潮間帯の上中部、岩上もしくは他の海藻体上に生育する海藻です(右の写真はウミトラノオに付着したもので、濃紅色の部分だけがスサビノリ)。アサクサノリと同様、日本各地で養殖されていますが、商品名は「浅草海苔」でとおっています。兵庫県の浅草海苔の養殖は、長崎県(有明海)、愛媛県(伊勢湾、三河湾)とともに盛んです。
 アマノリ類は葉緑素(緑色)のほか、フィコエリスリン(紅色)の色素を含んでいますので、生時や乾燥したときは濃紅色(紫紅色)となり、薄い藻体の細片を幾重にも漉き乾かした製品の浅草海苔は黒紫色になります。これを強火で焼くと緑色に変色します。これは熱によってフィコエリスリンが壊れて紅色を失い、熱に強い葉緑素が壊れずに残るからです。

ケウルシグサ(褐藻類、ウルシグサ目、ウルシグサ科、ウルシグサ属)
 水深二〜三mに生育する海藻で、長さは一・五mにも達します。海水中に生育している時は鮮やかな褐色ですが、空中にさらすと三十分〜一時間で青緑色に変色してしまいます。この変色は体内の物質分解で生じた硫酸エステルが犯人です。硫酸エステルは人体に有害ですので、注意が必要です。皮膚の弱い人では触れただけで、かぶれてしまいます。ウルシのかぶれと同じような症状になるので、ウルシグサという名前がつきました。食べると下痢をしたり、中毒症状になることもあります。一般に、日本沿海に生育する海藻は、まずくても何とか食えるものですが、このケウルシグサと近縁のウルシグサだけは別格なのです。

フサイワヅタ(緑藻類、ミル目、イワヅタ科、イワヅタ属)
 一見、陸上植物のような形をしているのは、岩上にくっついて体を支えている根(葡萄茎)、それから直立している円柱状の茎(直立茎)、そしてこの茎から出ている卵形状の葉(小枝)に分かれているからです。しかし、この植物は巨大な一個の細胞なのです。ただし、この巨大細胞は多数の細胞核を含んでいますので、「多核体」と呼ばれています。多核体では、多数の細胞核、葉緑体、ミトコンドリアなどが仕切りのない体の内部を活発に流動(原形質流動)しています。

ホプロホネウス(哺乳類、食肉目、ニムラヴス科)
 体長一・三メートルの食肉獣で、三千二百万年前の北米に棲んでいました(左図参照)。その巨大な牙にはノコギリの歯のようなギザギザが発達し、先の方はナイフの刃のように薄くなっていましたので、深く獲物に突き刺すことが可能でした。こうした牙の形態から、ホプロホネウスの殺しのテクニックは、現在のトラやライオンの窒息法とは異なり、動脈にまで達する傷をおわせ、大量出血させて獲物をたおすものだったことがわかります。
 こうした方法は現在の食肉類には見られませんが、化石の記録からは同じ形をとったものが異なった系統で四回も独立に進化したことが知られています。ホプロホネウスは地球が寒冷化し、はじめてサバンナ的な景観が地球上に現れた時期に生息していました。サーベル型の牙をもつものはホプロホネウスが最初で、サーベル型の牙をもつ最後の「剣歯虎」は更新世に進化し、一万年くらい前まで生存していました。

プロパレオテリウム(哺乳類、奇蹄目、パレオテリウム科)
 四千九百万年前のヨーロッパの熱帯雨林にいた小型(体長四十三センチ)の草食獣です。この化石はドイツのメッスルというところから発掘されたものですが、ここからは当時の熱帯雨林の生物が驚異的な保存状態で発見されています。昆虫の翅(はね)の模様、コウモリの翼の輪郭、動物の胃の内容物まで、泥岩にはっきり刻印されています。
 プロパレオテリウムは木の葉などを食べ、おそらく現在のバクのような生活をしていたのでしょう。新大陸に生息していた親せき筋に当たるウマの仲間は、木の葉からしだいに草の葉を食べられるように進化し、三千五百万年前からはじまる地球の寒冷・乾燥化を乗り越えることが出来ましたが、旧大陸で進化したパレオテリウム科の仲間は三千五百万年前のこの変化についていけず絶滅してしまいました。

ヤマショウビン(鳥類、ブッポウソウ目、カワセミ科)
 体長三十センチ弱のカワセミの仲間です。分布の中心は、中国大陸からインド、東南アジアにかけてで、日本で見られるのはかなり珍しいといえます。近年、鳥類の観察者が増加し、毎年少数は渡来しているらしいことがわかってきました。写真の個体は、昭和六十三年五月、兵庫県宍粟群山崎町で衰弱しているところを主婦が保護し、手当のかいもなく死亡したものです。
 学名はハルキオン・ピレアータといいますが、ハルキオンが「カワセミ」、ピレアータが「帽子をかぶった」という意味です。


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Copyright(C) 1998, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1998/03/27