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山崎断層

−868年播磨地震を起こした活断層−

 山崎断層系を構成する活断層と、その周辺で起きた過去の地震の震央(★)
(新編日本の活断層、近畿の活断層より作成)
 市川の平野では安富断層や暮坂峠断層は東方へは延長しておらず、
この平野を境に、山崎断層系は西部と東部に区分される。
一般には山崎断層とは、草谷断層を除いた西北西から東南東にのびる活断層群をいう。
活断層に沿う○印は、おもなトレンチ発掘調査の行われた地点を示す。

 

 兵庫県南部を東西に走る中国自動車道には、福崎から佐用までの間にトンネルがほとんどありません。この間には小さな谷や尾根の鞍部がまっすぐに続き、トンネルを掘らなくてはならないほどの大きな起伏がないのです。これらの小谷や鞍部の連なりが、じつは山崎断層といわれる活断層にそって発達しています。
 山崎断層は,1967年に発見された日本でも古い研究史を持つ活断層です。正確には「山崎断層系」とよばれる,長さ20km未満の7つの活断層からなる活断層群で,総延長は100km近くに達します。市川の中流、福崎付近の平野部では、これらの活断層が5km以上の間とぎれ、これを境に西側が「山崎断層系西部」、東側が「山崎断層系東部」に区分されます。西部は西から大原・土万・安富・暮坂峠の4断層から、東部は琵琶甲・三木・草谷の3断層から構成されます。草谷断層は北東から南西にのびる活断層で、残り6つの活断層は西北西から東南東にのびています。
 これらの活断層は大地震のたびにずれ動き、河谷や尾根に特徴的な地形を作ってきました。西北西から東南東に走る活断層と交差する谷や尾根は,断層の向う側の部分がそろって左へずれています。ずれが数百mに及ぶところも多く、ずれ動いた尾根が出口をふさぐように位置する谷もあります。これらの地形は、「左横ずれ」という水平方向の断層運動で作られたものなのです。一方,草谷断層ではずれの方向は逆の「右横ずれ」で、他の活断層とは異なっています。
 この断層運動はまた,「破砕帯」とよばれる軟弱な岩盤を活断層にそって帯状に発達させました。破砕帯は侵食されやすく,それにそって谷がのびたり,谷幅が広がったりするため,直線的に続く起伏の小さな地形を作ります。トンネルのない中国自動車道は,まさに山崎断層のおかげで完成したものなのです。

 

 山崎断層系・大原断層沿いの尾根と河谷の左横ずれ(撮影 岡田篤正)
 矢印のところを活断層(大原断層)が走る。
断層を横切る谷(A-A、B-B、C-C)や尾根(a-a'、b-b'、c-c')が、
みごとに左ずれしている。
 こうした断層運動で変化した地形を「変位地形」とよび、
変位地形を読み取ることから、活断層の存在やその位置を知ることができる。

 

 さて1995年兵庫県南部地震の直後には,山崎断層が次の大地震の原因として県民の関心を引きました。『三大実録』に記された868年播磨地震の震源であった可能性が高く,その後千年以上も大地震を起こしていないことが注目されたのです.1996年以降には、土万・安富・暮坂峠・琵琶甲・三木の5つの活断層について最新の活動期と活動周期を求め、山崎断層の危険性を評価しようと,兵庫県が調査を進めています。草谷断層はこの調査中に発見され、新たに調査対象に加えられました。
 この調査などから、大原・安富断層は播磨地震でずれ動いたことが確認され、その活動周期が二千年前後であると推定されています。土万断層と暮坂峠断層の一部(北半)も,この地震でずれ動いた可能性が高いとされました。つまり868年播磨地震は、山崎断層系西部のほぼ全体がずれ動いて起こしたと考えられます。また活動周期からみて、播磨地震から1,134年が過ぎた現在、山崎断層系西部が近い将来に大地震を起こす可能性は小さくないと思われます。
 一方、山崎断層系東部の琵琶甲・草谷断層は、播磨地震より古く二千年前頃に最新の大地震を起こしたと推測されます。兵庫県の調査では,これらの活動周期がわかりませんでした。しかし,地形のずれからわかる断層運動の平均的な速さから推定すると、活動周期は短くて四,五千年と考えられます。西部に比べると、山崎断層系東部が近い将来に大地震を起こす可能性は小さいといえるでしょう。

 

 

 こうした大地震の長期予測は、地盤や地形を考えた建設計画、建物の耐震性の向上などのハード面から、大地震の際の避難方法や情報伝達などのソフト面にいたるまで、「地震に強いまちづくり」を始めるきっかけを与えてくれます。さらに環境や生活への配慮と経済的な観点を加えることで、「地震に強いまちづくり」を「安全で快適なまちづくり」へと展開できます。山崎断層の長期評価をきっかけに,災害に備えるという、どちらかといえば暗いイメージを持ったまちづくりを、明るいイメージのまちづくりへと昇華させてみてはどうでしょうか。

 

(自然・環境評価研究部 加藤茂弘)



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Revised 2002/06/26