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展示の周辺

干潟は自然の浄化槽
〜3F 池沼と海 「赤穂の干潟」の展示から〜

 遠浅の泥の海岸である干潟にすむ生物たちは、河川をとおして陸から運ばれてくるさまざまな栄養分(人の排泄物も含みます)が利用でき、遠浅なおかげで空気中の酸素や太陽の光も十分に取り入れることもできます。そこは多様な微生物が育ち、それを食べて育つエビ・カニや貝類、小魚たちにとっても大切な生息場所になっています。さらに、これらの小動物たちは、干潟にやってくる大型の魚や鳥たちの餌となり、陸から流れ出てきた栄養分は干潟だけにとどまらず、より大きな生態系の循環に組み込まれていきます。栄養分の一部は人による漁獲や鳥たちに運ばれ、再び陸に戻ってくるのです。干潟は単なる浄化槽ではなくて、再生産の場でもあるのです。

 例えば、アナジャコの生活を見てみましょう。アナジャコは下図のようにY字型の巣穴をつくり、遊泳脚で水流を起こし、水中に漂っている微生物を前脚の毛(フィルター)でこしとって食べます。こういう小さな生物たち一つ一つの活動によって、陸からの養分が、大型の動物も食べられるものに変えられて行くのです(アナジャコは穴の中に住んでいるので、シャコのように捕りやすくはないのですが、シャコよりもおいしいという噂ですよ)。せっかくの陸からの栄養分も、うまく生物に取り込まれなければ、ヘドロとなって海底にたまり、生物に害をおよぼすことになります。干潟では、運ばれてくる栄養分を生物が上手に吸収し、次の生物に受け渡すしくみがあるのです。

 人も生態系の産物を食し、その排泄物や廃棄物を生態系に組み込まれなければ、本当の意味での持続循環型の社会は作れません。しかし、物質循環の要であり、多様な生物のゆりかごである干潟も、その多くが干拓や埋め立てによって消滅しています。兵庫県下にも、広い干潟が残されているところはほとんどありません。陸・海に関わらず、その場所が生態系において果たしている役割を理解し、その機能を保全していくことが必要です。

(生態研究部 坂田宏志)

アナジャコの巣穴 大きいものでは深さが2〜3メートルにもなります。
(写真 伊谷 行 絵 高木裕美)

















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Copyright(C) 1999, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 2000/04/21