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木とともにある暮らし

私たちのくらしと木材利用

 私たちの暮らしの中では昔からさまざまな木材が使われてきました。身近なところでは毎日の食事に使う箸やお椀から、家の建築・内装材、家具、運動具、農具、楽器など、さらには産業的に用いられる合板や梱包用材まで日常のあらゆるところで使われています。これらは木材そのままの形で用いられますが、パルプから紙になったり、さらにいろいろな化学成分に分解されて繊維や食品、医療品などに形を変えたものまで含めると、木材はそれこそありとあらゆるところで使われ、人間の生活にとって欠くことのできないものとなっています。
 私たちは、山へいけば木が生えていることを知っていて、木を切ればまた生えてくると思っています。しかし、木材利用できるような太い木の林になるには、自然のままでは100年以上もかかるでしょうし、人工的にスギやヒノキを植えても、使えるようになるには何十年ものあいだ手入れが必要です。そんなにまでして、なぜ人は木材を利用するのでしょう。それは、木材がプラスチックや金属など他の材料では代用できない、すぐれた素材だからです。私たち人間は遠い昔から木の有用性に気づき、木を利用してきたのです。

木は進化してきた

 約4億年前に、植物は初めて水中から陸上に上がってきました。陸上に上がった植物は、その後長い年月をかけて、多くの種へと進化していきます。かれらは重力の影響を強くうける地上で、その身体をささえるために維管束には水分を通す木部と、養分を通す師部がありますが、大きく発達した木部はまた植物体をささえる働きもし、それが樹木の幹であり、木材として利用されるのです。化石の記録を見ると、現在の針葉樹と同じ仲間は約2億年前に、また広葉樹と同じ仲間は約1億5千万年前にはすでに地球上に出現していたことがわかっています。樹木はこのような進化の過程で、それぞれの仲間ごとに異なった木部を発達させてきたので、現在生育しているさまざまな樹種はそれぞれ独特の木部構造をもっています。つまり、木材は一見するとどれも同じように見えますが、樹種によりその内部構造がちがい、性質もちがっているのです。

適材適所ということ ―材質に応じた木材利用―

 木材は樹種により色、堅さ、重さ、強さ、曲げ易さ、耐久性などが異なり、これらの性質に応じてさまざまな使い分けがなされています。仕上げ面が美しく、水湿によく耐えるヒノキは浴槽回りに使われたり、ねばり強さをもつヤチダモがバットやスキー板に使われたり、軽くて狂いが少なく湿気を通しにくいキリは和ダンスに使われたり、とまさに適材適所です。
 材質の違いは何によるのでしょうか。木材はその組織をつくっている細胞の形や配列の違いによって性質が違ってきます。木材組織の細胞は、針葉樹と広葉樹とですこし異なりますが、道管、仮道管または繊維細胞、そして柔細胞の三つが主なもので、それらが木材の中で縦に、あるいは横に、複雑に並んでいます。それらの細胞の長さや直径、細胞壁の厚さ、道管と繊維細胞の割合などが変われば、材の重さや堅さ、強さなどが変わってきます。種によって独特の内部構造をもち、したがってさまざまな材質の木があるため、さまざまな用途に適した利用の仕方ができます。これは人工物にはむつかしい、自然物のみがもつ特別な点でしょう。

木は私たちといっしょに生きている

 森の木々は地球生態系の中で重要な位置を占めています。地球上から木がなくなれば、今問題になっている二酸化炭素による地球温暖化どころではありません。植物の光合成によりつくられる酸素そのものがなくなれば、地球は文字どおり死の星となってしまいますし、森はその土壌に水をたくわえ、洪水や土砂の流出を防いだり、動物たちの住みかになったりします。物いわぬ森の木々が果たす役割はたいへん大きいものです。
 このことを理解しながら、一方で私たちは日々の暮らしのなかで、木の大切さをあらためて意識したことはあるでしょうか。たとえば、木が利用できる大きさに育つまでの時間と、切ってから製品を使い、捨てるまでの時間を比べてみるのです。私たちは快適な生活を求めるあまり、次々に新しい物を作り、まだ使える物を捨てているかも知れません。大切な木や森を守るためには、木からつくられる製品に愛着をもち、長く使い込むという姿勢も大切です。木は私たちと同じ地球に生きる友人であり、大切な自然の恵みなのですから。

さまざまな樹種と用途

アカマツ

建築、床板、家具、臼、杵、オルガン枠、合板芯材

イチョウ

家具、まな板、碁盤、漆器木地、箱、版木、木魚

カヤ

碁盤、将棋盤、風呂桶、彫刻材、建築、土木

スギ

建築、家具、仏壇、下駄、茶箱、木型、箸、桶、樽

ヒノキ

建築、家具、神棚、鼓、浴槽、面、彫刻

イタヤカエデ

床柱、内装材、バイオリン、スキー板、大工道具、農具、彫刻

カツラ

建具、家具、仏具、碁盤、漆器木地、下駄、木琴、ピアノ外枠、卓球台、鉛筆、彫刻

キリ

家具、箱、細工物、金庫内張、下駄、琴、能面、指物

ケヤキ

建具、家具、仏壇、臼、杵、太鼓胴、下駄、漆器木地、盆、椀、船舶、車両、機械

シナノキ

合板、内装材、桶樽、キャビネット、鉛筆、割りばし

シラカシ

柄、鎚、杵、農具、三味線、滑車、歯車、土木、車両

ツゲ

櫛、将棋駒、細工物、そろばん珠、印鑑、版木

トチノキ

建築、家具、漆器木地、木魚、下駄、土木

ブナ

農具、棒、木型、家具、合板、歯車、フローリング、パルプ

ホオノキ

製図板、寄木細工、将棋駒、漆器木地、下駄、能面、マッチ、刃物鞘、彫刻材

ミズキ

漆器木地、柄、棒、箸、杓子、糸巻、楊枝、彫刻材

ミズナラ

高級家具、建築内装材、フローリング、船舶、スキー板、樽、農具、棺

ミズメ

盆、漆器木地、三味線、家具、柄、そろばん枠

ヤチダモ

ラケット、スキー板、バット、ボートのオール、楽器外枠、盆、額縁、家具、合板

ヤマザクラ

家具、額縁、そろばん枠、パイプ、杓子、柄、数珠、ステッキ、三脚、三味線、版木

(系統分類研究部  高橋 晃)  

 

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Copyright(C) 1998, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1998/01/23