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ため池の植物

 私たちの住む兵庫県は全国一ため池の多い県です。ため池は生活と密着し、生活の一部として機能してきました。ため池には、水深・水質・水量の季節的変化などに合わせてさまざまな植物が生育していました。しかし、社会構造の変化とともに、ため池の存在意義は薄らぎ、開発による埋め立てや生活排水の流入による水質の悪化などによって、これまで普通に見られていた植物が次々と姿をあらわさなくなってきました。ため池の環境が悪化しているということは私たちの住む町自体の環境が悪化していることにほかなりません。オニバスやヒツジグサなど多様な水草が生育する風景をいつまでも守りたいものです。


オニバスが生育する池(加古川市平岡町)


ジュンサイが繁茂する池(三田市下相野)


オニバス(スイレン科)
 直径2m近い大きな葉を水の上に広げるさまは圧巻です。葉や花の萼(がく)にも鋭い棘(とげ)があり、「鬼蓮」の名がぴったりです。少し前まではあちこちで見ることができたオニバスですが、近年急激にその数が減り、現在では兵庫県では10カ所ほどの池でしか見ることができなくなりました。


ガマ(ガマ科)
 昔話の「因幡の白兎」(いなばのしろうさぎ)に出てくる植物です。ソーセージのような穂をほぐすと、綿のような毛に包まれた種が出てきます。池の縁など浅い水深のところに群がって生え、刀のような葉を伸ばします。


ヒシ(ヒシ科)
 「菱型」をそのままあらわした葉の形は一度見たら忘れられないと思います。葉柄(ようへい)がふくらんで浮き袋の役目をしています。比較的水質の悪い池にも生え、水質の悪化とともにヒシが繁茂するようになります。



ヒツジグサ(スイレン科)
 いわゆるスイレンの仲間で、未(ひつじ)の刻(現在の午後2時ごろ)に花を咲かせることから名前がつきました。ひとつの花は2、3日咲きますが、花びらは一度夕方に閉じ、翌日にまた開きます。


ニッポンイヌノヒゲ(ホシクサ科)
 花の集まりを包む (ほう:葉の変形したもの)が「犬の髭」に似ていることから名前がついています。イヌノヒゲ(ホシクサ)の仲間は一年草で、ため池の水をぬく秋に花を咲かせ、実をつけます。ため池の管理をしなくなると、なくなる恐れがあります。


イヌタヌキモ(タヌキモ科)
 細かく裂けた葉の集まりが、狸のしっぽに似ているところから名前がつきました。夏の頃、黄色い花を咲かせます。タヌキモの仲間は葉の一部が袋状となり、そこで水中の小さな生き物を捕まえて栄養にする食虫植物です。
(系統分類研究部 池田 博)

(撮影:系統分類研究部 高橋 晃、生物資源研究部 鈴木 武・藤井俊夫)

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Copyright(C) 1997,Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1997/03/30