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◇ 水辺の施カを伝えよう、取り戻そう

親しみやすい水辺とは?  建設省が平成2年から行っている「河川水辺の国勢調査」によ ると、兵庫県内の1級河川(国管理の大河川)での水辺の利用状 況は、ほとんどが高水敷(こうすいじき)といわれる、普段は水 につからない河川敷での散策やスボーツ利用で、水遊ぴや釣りな どの水面や水際の利用は全体の1割程度でしかありませんでした。 この結果は、人々の水そのものに対する関心が薄れ、接触の度合 いも低くなっていることを示しているように見えます。しかし、 この調査が行われた円山川、加古川、揖保川といった大きな河川 の本流は、水量が多かったり深みがあったりと、特に子供たちに とっては近寄りにくい場所だと考えられます。むしろ、子供もお となもそれぞれが水辺に親しめる環境は、このような河川の本流 ではなく、支流の中小河川や、いわゆる小川や渓流といった場所 に残されていると言えるでしょう。 「水辺」の現状  ところが、人々にとって親しみやすいそのような水辺は、ここ 20〜30年の間に大きく様変わりしてしまいました。近所の小川 や水路のようすを思い浮かべて下さい。もはや、小川や水路でドジョ ウを追ったつ、ホタル狩りをした経験は、中高年層の郷愁に過ぎな いとさえいえる状況です。  青少年向けの野外活動施設で人気があるのが、人工的に造られた 池に放された魚を号令と共に一斉に追いかけ回し、競争で捕まえる プログラムだと聞きます。このような活動を通して子供たちは何を 学べるのでしょうか。本来川では「どのような深みや茂みの下に魚 がいるか、石の裏にどんな虫がへばりついているのか」、ほとんど の子供は、そのようなことを何も知る機会もないままに大きくなり、 もともと川は蛇行しながら流れているものなのに、真っ直ぐに流れ る川を見ても何も感じない大人になってしまうのではないでしょう か。 水辺を取り戻す試み  水辺の自然に親しむ活動は、むしろ大都市周辺で盛んになってい るようです。神戸市や阪神間では、『住吉川の清流を守る会』の活 動をはじめ、都賀川、生田川、山田川、伊川、芦屋川、仁川などで、 「清流を取り戻し、水辺に親しもう」という運動が長年行われてい ます。このような、水辺に親しみ、水辺を保全しようという草の根 の運動は全国的な広がりを見せ始めています。その中でも『よこは まかわを考える会』の活動は有名です。この会は、川をレクリェー ションや生き物とのふれあいの場として積極的に利用することでい くつかの都市河川に清流をよみがえらせようとしています。  今年7月、兵庫県稲美町のため池地帯の池の1つが整備され、『東 はりま水辺の里公園』としてオープンしました。ここは、今までの 公園のイメージとはずいぶん趣が異なっています。今まで公園とい えば、園芸種の草花が色とりどりの花を咲かせ、緑の芝生が広がっ ているというのがおおかたの相場でした。ところがこの公園では、 開園式当日でさえ特別に花を飾り付けたわけでもなく、辺りには夏 の田園地方ならどこの道ばたにでも見られる野草が一面に生い茂り、 上空にはセッカが<ヒッヒッヒ>と独特の鳴き声を響かせていると いったふうでした。たぶん地元の人にとっては、日常のありきたり の風景に写ったことでしょう。  ここの目玉は、虫や魚を採ってもかまわないということです。そ のために、これらの小動物が繁殖できる茂みや湿地を創ろうとして います。最近よく耳にするようになった「ビオトープ(生物生息空 間)」を創り、維持しようという試みです。子供たちが採ることを 予想して、虫を育てる飼育舎や、どんな生き物がいるかを解説展示 する施設もつくられています。 「親しむ水辺100選」を  先ほど、野外活動施設での中途半端な魚つかみの例を出しました が、中には豊かな自然の残る川で、子供たちが本来の「ミズがき (水辺に集まる“悪重ども”といった意味)」に戻って遊ベる環境 を提供している施設もあります。たとえぱ、加古川上流の杉原川は、 淀みと瀬が交互にあるという川本来の姿をとどめていて、岸辺には、 まだ樹林や竹やぶが残されています。橋の上から杉原川を覗(のぞ) いてみると、夏の浅瀬なら、鮮やかな婚姻色に染まったオイカワの 雄が雌により添って砂を掘り、産卵させているところが見えます。 きれいな砂地の底、変化のある流れ、冷たい水、カワムツやオイカ ワなど自由に泳ぎまわる魚。この川での水遊びは本当に楽しそうで す。  自然環境の変化に富む兵庫県下では、各市町にまだまだこのよう な良い環境を持つ川辺や海辺が見い出せるのではないでしょうか。 その多くは今のおとなたちが子供の頃に親しんだ場所かもしれませ ん。そんな場所は、単に見た目のきれいさや安全性といった視点だ けではなく、むしろたくさんの生き物がいて、変化があって、子供 の興味を引き出すといった視点で選ばれるはずだと思います。その ようなところを、たとえば「親しむ水辺100選」のような形で選んで みてはどうでしょう。そして、そのような環境を、子供もおとなも 楽しめる場所として、できるだけそのままの形で保全し、さらによ い環境へと復元していくことを提案したいと思います。もちろん、 実際にそのような場所が保全され、利用されるためには、安全面で の配慮や遊び方の伝承が大切です。そのためのシステムや方法の工 夫と整備が平行して行われなければならないでしょう。  「あぶない、きたない、めんどうくさい」ではもう片づけられな い、「学びの時代」がやってきています。 (生物資源研究部 戸田 耿介) (写真説明) 野草の茂みが再生した川岸で遊ぶ家族連れ(芦屋市芦屋川) 変化のある流れを楽しむ自然学校の子供たち(加古川上流の杉原川)

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Copyright(C) 1995,1996, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1996/01/12