開館1年を終えて

人と自然の博物館長  加藤 幹太

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 兵庫県立人と自然の博物館が北摂三田の地に開館してから早くも1年が経過した。神戸の県庁の一角にあった準備室から改造の槌音のひびく博物館に移り、公約している10月の開館日まで館員一同は超多忙であった。私自身も開館寸前まで不安の念を抱いていたが、館の職員と諸業者の方々の努力を見ていて多分何とかしてくれるという気持ちですごした。それだけに秋篠宮同妃両殿下をお迎えして、貝原知事を始め多数のご来賓の出席のもとに開かれた開館記念式典と翌日の開館第1日に多くの県民が来館して下さったことの喜びは大きく、また、われわれには何よりの激励であった。
 昨今では、館は落着きを見せ、諸行事も軌道に乗ったかに見える。しかし、まだ解決せねばならない懸案も残っているし、館の特色とする事業の状況も充分満足できるものとは思っていない。この博物館の基礎が本当に固まるためには少なくとも3年ぐらいはかかるという覚悟で、あせらずに着実に進めてゆけばよいと考えている。
入館者の総数は昨年12月末で約15万人を超えた。ほぼ予想に近い人たちが来て下さったことは感謝している。この人たちがどうのような気持ちで館をあとにされたかは一概にはいえないと思うが、おおむね好評を得ていると自認している。もちろん多岐にわたるご批評もいただいており、これらは今後に生かしてゆく必要がある。
 私にとっては館の理念的な問題が絶えず脳裏にちらついている。この館の特徴として、教育委員会所属の博物館に、姫路工業大学の自然・環境科学研究所を併設してもらった点が注視されている。これは館の研究重視の象徴であり、各研究部が大学レベルの研究を推進してその成果を博物館活動に反映させるという考えにもとづく。準備室時代に研究博物館のモデルとして国立民族学博物館と国立歴史民族博物館があった。しかし、これと同じ体制をとることは不可能であり、県当局や工大側の多大のご協力によって、教授・助教授等より成る工大付置研究所を館におくことにしてもらったのである。他の館員は教育委員会事務局所属の職員であるから、形の上でいえば半官半学の博物館になったいえる。しかし、半球を二つくっつけた形でなく、モザイク状に混然として博物館の一体性を持たねばならないと思う。組織上の二重性の難点を少しづつ克服して、この形を立派に育てることがこれを認めて下さった方々に対する義務といえよう。
 もう一つの理念は、現代における開かれた楽しめる博物館ということである。神戸のUCCコーヒー博物館長の諸岡博熊氏からいただいた本には、傾聴すべき博物館のあり方が述べられている。要するに楽しく知的な喜びを得てもらうために、知恵をしぼって演出せよと言っておられる。われわれの館はどこまでこれに応えているだろうか。
 さて、この研究重視とアミューズメント性をもった現代的な博物館を両立させることは簡単ではない。大英自然史博物館館長も後者を取り入れてゆかねばならないといっておられたし、梅棹元民博館長も大学教官である館員が客商売にも力を入れる必要を述べておられれる。私たちの館は1年を終わったばかりであるが、反省と前進を心がけてこの二つの理念に沿って県民の期待に応えてゆく必要がある。

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Copyright(C) 1998, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1998/03/20