うさぎと かめとの話 南方 熊楠(みなかた くまぐす) 【子ども向けに書きかえてみました】  まず、小学生の子どもがよく知っている、うさぎとかめが、かけっこをした話をしましょう。 これは「イソップ物語」に出ているものです。 (中略) こんな物語です。うさぎがかめとあったとき、うさぎが、自分はとても足がはやいが、 それにくらべてかめは何と足がおそいんだと笑いました。 するとかめは、「そんなに言うのなら、あなたとかけっこをしよう。走る長さは五里(約20キロメートル)、 勝った方が五ポンド(イギリスのお金の単位)もらうことにしよう。 どちらが勝ったか、この話を聞いているきつねに見ていてもらおう」と言うと、うさぎはわかったと 言いました。 「よーい、どん」でふたりは走り出しましたが、うさぎはもともとすばやいので、たちまち、 かめの姿が見えなくなるほど遠くまで走っていきました。 あんまりはやく走ったうさぎは少しつかれたらしく、道のそばにはえているシダの中にすわって、 うとうとと眠ってしまいました。 うさぎは耳が長いので、かめが音を立ててそばを通ったら、たちまちはね起きて、もう一度走って、 追い抜くつもりでいたのです。 ところが、かめを軽く見ていたうさぎは、眠りすぎてしまいました。 その間に、足は遅いものの、かめは力いっぱいがんばって歩き、とうとう目的地に先に着いてしまいました。 ここでやっとうさぎは目をさましましたが、そのときにはもう負けが決まっていました。 (文責 三谷雅純) 「十二支考 兎に関する民俗と伝説 (付)兎と亀との話」 大正4年一月一日 『牟婁新報』