ひとはく研究員の発表論文紹介(2016年)

ナデシコ科の日本新産帰化植物,ハナイトツメクサ(新称)

Moenchia erecta (L.) G., M. et Sch. (Caryophyllaceae), newly naturalized in Japan
2016年2月発行

著者:高野温子・黒崎史平・植村修二
掲載誌:分類、16巻1号、59-62頁、2016年
内容紹介昨年のゴールデンウィークを迎えるころ、人と自然の博物館のエントランスホール前の芝生に見慣れない白い花を咲かせる植物が群生しているのに気がつきました。ナデシコ科の帰化植物であることは明らかでしたので、海外の植物図鑑を調べて同定しました。日本では2014年に三重県でも発見されていましたが、報告は未だでしたので、ハナイトツメクサという和名をつけて報告しました。
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ハナイトツメクサ(撮影 ひとはくエントランス前) 

Aptychella touwii(Pylaisiadelphaceae, Musci)sp. nov. from New Guinea with singly costate

1本の中肋を持つニューギニア産オオタマコモチイトゴケ属の新種Aptychella touwii(コモチイトゴケ科,蘚類)
2016年2月発行

著者:Hiroyuki Akiyama
掲載誌:Bryological Research、 11巻6号、167-171、2016年
内容紹介:オオタマコモチイトゴケ属Aptychellaは、世界に10種ほどが知られる蘚類の仲間です。DNA情報と形態情報を使った近年の研究によって分類学的な整理がおこなわれましたが、まだまだ知られていない種があります。この研究では、オランダの遠征隊によってニューギニア中央高地で1975年に採集され、それ以来長く標本庫の中に眠っていた標本を研究し、あらたに新種として報告しました。これもまた、分類学の醍醐味のひとつなのだと思います。
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年を経て変色したAptychella touwiiの完模式標本

A re-examination of the identities of Forsstroemia japonica (Besch.) Paris and Pseudopterobryum tenuicuspes Broth. (Neckeraceae, Musci)

ヒナイトゴケForsstroemia japonicaとPseudopterobrum tenuicuspisの分類学的位置についての再検討
2016年2月発行

著者:Hiroyuki Akiyama
掲載誌:Bryological Research、11巻6号、157-166、2016年
内容紹介:日本人にはずっと以前から親しまれてきた蘚類の一種であるヒナイトゴケの所属について、分子系統の結果から全く異なる属に組み替えた研究が2012年に発表されました。その結果があまりに形態と乖離したもので信じがたい結論でしたので、納得できずにサンプルを増やして調べ直したのがこの論文です。結論としては、従来通りの分類が正しいことがわかりました。先行研究の著者らが犯した過ちは、サンプルの取り違えというきわめて初歩的なものだったことも明らかになりました。


Pattern of co-occurrence between ant-mimicking jumping spiders and sympatric ants in a Bornean tropical rainforest

ボルネオ島熱帯雨林のアリ擬態クモ類とアリ類の共出現パターンの解析
2016年3月発行

著者:Yoshiaki Hashimoto, et. al
掲載誌:RAFFLESBULLETIN OF ZOOLOGY 64:70-75 2016年
内容紹介:この研究はボルネオ島熱帯雨林で,アリに擬態するクモ類と非擬態クモ類の出現パターンと同所のアリ類の出現パターンの関係を解析したものです.445箇所でサンプルを採集しアリに擬態するクモ類が擬態のモデル・アリ種と共出現することを初めて統計的に明らかにしました.さらに,アリ擬態クモ類のgoodとpoor擬態者の出現パターンを比較して,「あまり似ていない擬態者がいるのは,特定のモデルにそっくりに擬態する者より,多種多様なモデルの生息域で共存できるから」という仮説(multi-model hypothesis)が指示されることを初めて明らかにしました.
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アリ疑態クモ

西日本で初めて確認されたクロバネキノコバエ科幼虫の集団行進

New record of armyworms (Diptera: Sciaridae) in western Japan
2016年4月発行

著者:山内健生・有馬知佳
掲載誌:ペストロジー、31巻1号、5-6、2016年
内容紹介:2015年8月1日午前5時46分頃,豊岡市日高町東河内で,アスファルトの舗装道路上を行進するクロバネキノコバエ科幼虫の集団が発見されました.クロバネキノコバエ科幼虫の隊列は,長さが約20 cmでした.そこで,スマートフォンを用いて16秒間の動画と静止画1枚を撮影しました.我が国では,本科幼虫の集団行進は,これまでに神奈川県以東で6例が確認されていただけでしたので,これは西日本で初めての発見となりました.
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クロバネキノコバエ科幼虫の集団行進 (あたかも1匹の大きな生物のように見える)


Sporophytes newly found for Taiwanobryum guangdongense  (Neckeraceae, Bryophyta) from Taiwan.

Taiwanobryuum guandgongense(蘚類ヒラゴケ科)ではじめて見つかった胞子体
2016年4月発行

著者:Hiroyuki Akiyama・ Johannes Enroth(フィンランド)
掲載誌:Bryophyte Diversity and Evolution 38巻1号、23-26、2016年
内容紹介:Taiwanobryum guangdonenseは、中国大陸南部、海南島、ベトナム中部、台湾から報告されている、小型で樹幹に生育する蘚類です。これまでは胞子体が見つかっていませんでした。2013年10月に、台湾中部にある東海大学の林先生の協力を得て、台湾中部にある雪霸國家公園内の雪見遊憩区という場所でコケ植物相の調査を行いました。そのとき、大きな木の幹に薄い群落をつくって生育している本種を見つけました。台湾での2番目の産地でしたが、これまで未知だった胞子体をつけていましたので、詳しい記載を行って報告しました。


A robust phylogeny among major lineages of the East African cichlids

東アフリカに生息するシクリッド(カワスズメ科)魚類の頑健な系統
2016年7月発行

著者:Tetsumi Takahashi・Teiji Sota
掲載誌:Molecular phylogenetics and Evolution、100巻、234-242、2016年
内容紹介:東アフリカには多くのシクリッド魚類が生息し、適応放散のモデルとして有名です。しかし、その系統はよく判っていませんでした。本研究では、最近発展してきたDNAの解析手法(RAD法)を用いて強固な系統樹を作成し、進化の歴史を解明しました。
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Predation risk promotes delayed dispersal in the cooperatively breeding cichlid Neolamprologus obscurus

共同繁殖をするシクリッドNeolamprologus obscurusにおいて、捕食リスクが分散を遅延させる
2016年7月発行

著者:Hirokazu Tanaka・Joachim G. Frommen・Tetsumi Takahashi・Masanori Kohda
掲載誌:Animal Behaviour、117巻、51-58、2016年
内容紹介:ある種では、子が大きくなるまで親元に留まり、ヘルパーとして弟妹の世話をします。これを共同繁殖(cooperative breeding)と呼びます。しかし、なぜこのようなヘルパーが親元に留まるのかは、よく分かっていませんでした。本研究では、アフリカ・タンガニイカ湖に固有なNeolamprologus obscurusの生態を現地での潜水調査で調べ、捕食圧が子の分散(巣から出ること)を制限していることを突き止めました。
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Neolamprologus obscurusは岩の下で繁殖する 写真提供:田中宏和博士(ベルン大学)

アリ擬態現象から探る熱帯の生物多様性・維持機構

Through the Looking-Glass: the roles of ant-mimicry in creating and maintaining tropical biodiversity
2016年8月発行

著者:橋本 佳明
掲載誌:日本生態学会誌、66巻、407-412、2016年
内容紹介:アリ類の種多様性が極めて高い熱帯では,アリに擬態する生物の多様性も高いことが知られています.本研究では,アリ擬態が生物多様性創出機構として機能していることを,これまでの研究成果から総括しました.画像解析技術を用いた擬態関係の特定や安定同位体による擬態クモの食性解析等を紹介しています.
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ボルネオ島のアリ擬態クモ     擬態クモ-モデル・アリの特定


Borneocola (Zingiberaceae), a new genus from Borneo

ボルネオ島のショウガ科新属Borneocola
2016年11月発行

著者:Yen Yen Sam, Atsuko Takano, Halijah Ibrahim, Eliska Zaveska, Fazimah Aziz
掲載誌:Phytokeys 75巻, 31-55, 2016年
内容紹介:ショウガ科植物は、世界中の熱帯域から1300種余りが知られていますが、分布の中心は東南アジアです。今回、ボルネオ島とマレー半島に分布が知られるScaphochlamys属とその近縁属を中心に分子系統解析を行ったところ、ボルネオ島産の一部の種が系統樹上でScaphochlamys属とは異なるまとまりを形成し、共通の形態的特徴を持つことがわかりました。そこでこれらの群を新属Borneocolaとして記載しました。
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Borneocola petiolatus

自然系博物館における幼児向け科学教育プログラム  -身近な生きものを題材として

A Science Education Program using Familiar Plants and Creatures for Early Childhood in the Museum of Natural History
2016年12月発行

著者:小舘誓治 ・高瀬優子・古谷 裕・八木 剛・高橋 晃
掲載誌:博物館学雑誌(全日本博物館学会), 第42巻 第1号, 37-45 , 2016年
内容紹介:これは、身近な生きものであるダンゴムシやダンゴムシがエサとする木の葉っぱ(コナラやクスノキ)などを題材として開発した、幼児向けプログラム「ダンゴムシはかせ になろう」と「だんだんダンゴムシ」を報告したものです。プログラムを実施した子どもの保護者へのアンケート結果なども紹介しています。
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体を動かしながらダンゴムシの生態を学びます


富山県における2010年以降のマダニ人体刺症10例,特にタカサゴキララマダニ症例に注目して

Additional 10 cases of human infestation with hard ticks in Toyama Prefecture, Japan, with two cases by Amblyomma testudinarium (Acari: Ixodidae)
2016年12月発行

著者:山内健生 ・ 中谷友美
掲載誌:衛生動物、67巻4号、239-242、2016年
内容紹介:この論文では,2010~2015年に富山県で発生したマダニ人体刺症10例を報告しました.今回2例を報告したタカサゴキララマダニによる人体刺症は,富山県では1976年に1例が確認されて以来の症例でした.タカサゴキララマダニはイノシシと関係の深いマダニです。富山県では,従来イノシシが分布していなかったのですが,近年のイノシシの定着にともなって,タカサゴキララマダニによる人体刺症の発生が増加しつつあると考えられました.
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タカサゴキララマダニの若虫


Size-assortative mating and arm loss in the wild shallow-water octopus Abdopus sp. (Cephalopoda:Octopodidae)

野外で観察された、浅海性カクレダコ属の1種のサイズ調和配偶および腕の欠損
2016年12月発行

著者:和田 年史
掲載誌
JOURNAL OF NATURAL HISTORY, 2016
http://dx.doi.org/10.1080/00222933.2016.1252069
内容紹介:この研究はグアム島のバゴ湾の浅海域でカクレダコ属のタコの繁殖行動を調べたものです。大潮の干潮時の夜間に浅海域をくまなく歩いて繁殖ペアを探し、サイズの大きい雌雄がペアを形成していることや、サイズの小さい雄がペア雄の隙をついて雌と交接(交尾)するコソ泥戦術(スニーキング)を採用することなどを明らかにしました。さらに、この仲間のタコ類は腕を自切して再生する能力を持つのですが、スニーカー雄の腕の欠損率がペア雄と比べて有意に高く、腕の欠損の程度が雄の繁殖行動に影響することが示されました。
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上の写真は、雌に精子のカプセルを渡すための交接腕(右第Ⅲ腕)以外のすべての腕(7本)を失った雄が、雌との交接に成功しているところです。写真は水槽内ですが、このペアの野外での交接も記録できました。

Body size evolution of a shell-brooding cichlid fish from Lake Tanganyika

タンガニイカ湖に生息するある貝繁殖種の体サイズ進化
2016年12月発行

著者:Tetsumi Takahashi・Kazutaka Ota
掲載誌:Journal of Evolutionary Biology、29巻、2373-2382、2016年
内容紹介:このシクリッドは、外敵に襲われると巻貝の空殻に頭から入って隠れます。そして出る時は、貝の中で回転し、外の安全を眼で確認してから出ます(右の図)。しかし、大きい個体は貝の中で回転できないため、外を確認せずに尻尾から出ざるを得ません。そうすると、外敵に襲われやすくなります。よってこの種では、貝の中で回転できるように体サイズが抑えられている可能性があります。本研究ではそのような仮説を、モデル選択の手法を用いて検証しました。
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Telmatochromis temporalis 矮小型が巻貝の 中から外を窺っているところ。

Early Pleistocene Fossil Snakes (Reptilia: Squamata) from Okinawajima Island in the Ryukyu Archipelago, Southwestern Japan

琉球列島・沖縄島から産出した前期更新世ヘビ類化石
2016年12月発行

著者:池田忠広・ 大塚裕之・太田英利
掲載誌:Herpetological Monographs、30号、143-156、2016年
内容紹介:琉球列島、沖縄島に分布する下部更新統呉我層より、他の脊椎動物化石とともにヘビ類の脊椎骨化石が複数産出しています。先行研究で示されている現生種の情報をもとに、化石がどのようなヘビに属すのか調べたところ、ナミヘビ科のアオヘビ属、マダラヘビ属、クサリヘビ科のハブ属、コブラ科のワモンべニヘビ属に同定されました。結果、前期更新世の沖縄島には、現生3種の祖先群、また現在同島に分布しない種が生息していたと考えられます。
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ハブ属に同定された化石 スケール=2mm




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