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◇ ハチの顔・アリの顔

 ハチの顔やアリの顔をじっくりと鑑定したことがある人は、あまりいないでしょう。  人相には、その人の生まれや育ち、あるいは性格が現われるそうですが、ハチ相や アリ相はどうでしょう。たとえば、葉っぱや花粉を食べて大人(成虫)になるハバチ やハナバチ達の顔(写真1〜3)と、肉食で、他の昆虫を体の中に潜り込んだり、麻 酔したりして食べてしまう寄生バチ(写真12)やカリバチ達の顔(写真4〜11) を比べてみると、どうも、後者の方が「悪人面」をしているようです。もちろん、ハ ナバチのなかにも、ハラアカハキリヤドリバチ(写真3)のように、花粉を集めるの が大変なので、他の種(オオハキリバチ)が蓄えた花粉を巣ごと盗んでしまう「悪い やつ」もいます。そう思って見ると、なんとなく、留守宅を探して目をぎょろつかせ ているドロボウのような顔つきに見えてこないこともありません。  ハチ達の中には、母娘の親子関係をさらに発展させて、娘達を働き手に、母親は子 作りだけに専念する社会生活を進化させたものがいます。ドロバチ(写真5)とアシ ナガバ(写真6)チは、系統的に姉妹関係にあるハチ達ですが、前者の方ははまだ完 全に社会生活をはじめてはいません。両方の顔を見くらべていると、農村に残ったお 姉さんと都会に働きに出て擦れてしまった妹の顔を眺めているような気がしますが、 どうでしょう。アリ達(写真7〜10)になると、その社会進化も頂点に達し、他の 種を奴隷にして働かせ、自分達は奴隷狩と子作りしかしないサムライアリ(写真8) のようなものまで現われます。奴隷にされる方のクロヤマアリ(写真7)の顔と比べ ると、やっぱりサムライアリの方が悪るそうにみえます。ウロコアリ(写真10)は、 たくさんの獲物(トビムシ)を一緒に暮らす仲間にもって帰ろうと、自分の顔を顎が 長く突き出た「わな」に変形させています。獲物が通りそうな道に顎を開いて顔を突 き出し、餌が捕まるまで、いつまでも動かずに待っている。ハバチ(写真1)のよう に、社会生活などせずに、そこらに生えている葉っぱを食べていた祖先から、「ひょ っとこ」みたいな顔に変わってしまったウロコアリを見ていると、働き過ぎで痩せて しまったビジネスマンの顔をみているような気がしてきました。ハチの世界も人間界 と同じく、社会の繁栄を支えるためには、顔つきぐらいは悪くなっても、しかたない ですよね。 (文 系統分類研究部 橋本佳明) 写真説明  1.カブラハバチ 2.ツヤハナバチ 3.ハラアカハキリヤドリバチ 4.ツチスガリ 5.オオフタオビドロバチ 6.フタモンアシナガバチ 7.クロヤマアリ 8.サムライアリ 9.ノコギリハリアリ 10.ウロコアリ 11.アリガタバチ 12.アメバチ (標本は全て触角を除去しています)

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Copyright(C) 1995, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1995/12/18