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展示と周辺


 展示と照明 

  ヒトは霊長類に属する視覚動物です。したがって、ヒトがヒトのためにこしらえた博物館の展示はまず視覚を主としたものになってしまいます。最近では全国的に「触れる展示」が増えてきていますが、視覚以外の感覚を利用した展示はまだまだ少ないのです。人と自然の博物館の展示で探してみると、3階の展示の樹液に集る昆虫(音声付き)、1階にある植物の匂いをかがせる展示、木材の硬さを音や重さで実感させる展示ぐらいでしょうか。音声の出る展示は、とくに映像にはたいてい音がついていますので、あちこちにちらばってはいますが、視覚障害者が楽しめる展示にはなっていません。
  人と自然の博物館のジオラマ展示で一番大きい、1階の「ブナ林」の展示には60分に一度、5分間の「しかけ」があります。いったん照明を落として、次第に明るくなる夜明けを演出します。そして、鳥の声が聞こえてきます。ふつうはここまでなのですが、実は明るくなると朝もやがかかっている状態になり、それがだんだん薄れていくという「しかけ」もつくってあります。しかし、このしかけは人工のもやが展示を汚すという理由で、通常は使用されていません。この他に、「森の匂い」が吹き出す「しかけ」もあるのですが、これも匂いの素が切れてストップしたままになっています。
  1, 2月は来館者が一番少ない時期です。館内の明るい照明がむなしく見えてきます。午前中など来館者ゼロという時間帯もあります。それでも全館こうこうと明るい照明はつけざるをえません。少々もったいないなという気持ちが浮かんだとき、ふと考えました。ふつうの家庭だったら、客のこない部屋の照明はしないはず、来館者が見ないところは消してもかまわない・・・。これは使えるアイデアではないか。
  人と自然の博物館の展示は、昨年(2002年)10月10日でまる10年です。10年経てば、内容が古くなり、故障も増えてきます。そうすると、「新しい展示」が話題にのぼります。しかし、「展示更新」という効果はもってもせいぜい1年です。それでも多大の金と労力がかかります。どちらもかからない「展示更新」はないのでしょうか。
  いくら見慣れた我が家でも、とつぜん停電になって懐中電灯や蝋燭をつけると、別世界になります。誕生日のケーキにつけられた小さな蝋燭、その光がかもす世界はいつも新鮮です。かつての夏休み企画の1つでしたが、深田公園の中でキャンプをしたことがあります。そのとき夜中に、人と自然の博物館に懐中電灯をもって子どもたちと入り込んでみました。別世界でした。展示をまったく変えなくても照明を工夫するだけで別世界がつくれるなんて、経費節減にぴったりではありませんか。
  「まわりの光を消すこと」が「小さな光に力を与えること」になる・・・初春に観察できる雨の日のホタル幼虫上陸、初夏のホタル成虫観察、初秋の鳴く虫の夕べを、毎年暗がりで経験するたびに、「博物館と照明」を考えてしまうのです。 

        (自然・環境マネジメント研究部 大谷 剛)

   
      

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Copyright(C) 1999, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 2003/6/26