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ひととしぜん

人とシカの関わり


シカは昔から人の暮らしと深いつながりがありました。シカの肉は食糧として、角や皮は生活用品の材料として使われ、大切な資源でした。しかし、シカは農作物の害獣としても人の暮らしに関わってきます。どんな生き物でも、良いことだけ、悪いことだけということはありません。そして、良いところを使いすぎてはいけませんし、悪いところだけ避けるのはむずかしいことです。

明治から昭和の前半にかけて、ヨーロッパ諸国に比べてまだ自然が豊かだった日本は、動物の皮を輸出し外貨を稼ぎました。たとえば、大正14年には、横浜から44万枚、神戸から27万枚の毛皮が輸出されたという記録もあります。しかし、この時期に多くの野生動物が狩猟や、開発によって生息地を追われ、個体数の減少や絶滅の危機に追い込まれました。この時期にシカの数も極端に減っていたようです。

その後、保護策がとられ、70年代からシカの個体数は徐々に増えました。私たちが家畜の肉を食べ、プラスチックや合成皮革を使い、シカを利用しなくなったことも要因の1つです。今では増えたシカによる農林業被害が農山村を脅かし、自然植生へもダメージが出るまでになっています。

シカの数を一度大きく減らしたことや、シカに対する価値観の変化は、現在にも課題を残しました。シカが減っていた時期、長い間培ってきた、防除のための技術や努力がとぎれてしまいました。また、狩猟の産業化とその崩壊は、地域的な狩猟のルールを崩し、狩猟の後継者も減らしました。多くの農家にとってシカは未知の敵となり、増えたシカを有効に活用できる人も少なくなりました。

いまは、外国の生態系に食糧を頼っていることを考え直さなければならない時期に来ています。農耕をして食糧を得るためには野生動物と闘うことはある程度やむを得ません。しかし、そのためにシカを減らしすぎれば、私たちは別の資源を失います。これからは、農耕も含め自然の恵みの利用と保全のバランスを考え、シカとの関係を築くべきです。勝っても負けてもいけない戦い、そのむこうに調和的な共存、そして持続的な自然の恩恵の享受があるのではないでしょうか。



(自然・環境マネジメント研究部 坂田宏志)

     
人とシカの調和的な共存に向けた課題





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Revised 2002/06/26