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展示の周辺

下流域の群衆 オオクチバス
〜2F「生物の生活」の展示から〜

 外国の生物が、日本に侵入・定着していろんな問題を起こしている。とりわけルアーフィッシングのブームに乗って、あっという間に日本国中に広がったオオクチバスの問題は深刻だ。北米原産のオオクチバスは、食物連鎖の上位に位置し魚食性が極めて高い。昨年から兵庫のため池で、魚類をはじめとする動植物の総合調査を始めた。その結果、オオクチバスが住んでいるため池から、メダカが消え去っているという驚くべき事実が明らかになってきた。メダカに限らず、フナやタモロコ、モツゴなどの小魚たちも同じような状況だ。

 生態系を構成する生物同士の関係は、「食う・食われる」、「同じ資源を巡って競争する」、「規制する・される」間柄などさまざまである。しかしそこには共通する原理がある。「食う・食われる」を例に取れば、食われるものは何とか食われなくするような習性を、一方で食う側は何とかうまく食うような習性を身につけてきた。もともと同じ水域に住んでいる生物は、そこに住んでいる生物どうしの間で互いに切磋琢磨して共に進化し、微妙なバランスを保って共存しているがゆえ、生態系が維持されているという原理だ。

 オオクチバスが放流された為池には、もともと日本に住んでいた淡水魚がいない。この事実は、いつも顔を合わせて互いに切磋琢磨しつつ共進化してきた生物でない場合、両者の共存がきわめて難しい事を示している。異なった生態系で進化してきた生物を、別の生態系に人為的に持ち込む事には、極めて慎重でなくてはならないのだ。

 百歩柚ってオオクチバスが、日本の水域生態系の中に不時着するように組み込まれれば、生物多様性を促進する事になり、人にとって望ましい結果になり得るのか。答えは否である。食物連鎖で上位の捕食者を支えるには、普通その数十倍の餌生物量を必要とする。オオクチバスを支える魚は、もともとフナの甘露煮・モロコの素焼きとして日本人の食を支えてきた。極論すれば、わたしたちと同じ食物資源を巡って競争する種を、能天気にも全国津々浦々にまで導入している事になる。オオクチバスの放流は、人にとっての日本の淡水域・国土の生産性を低下させる自爆行為なのである。



兵庫県小野市のため池のオオクチバス。小さな水域で餌の小魚が枯渇し始めたのかやせている。
(2001年7月、自然・環境マネジメント研究部 三橋弘宗 撮影)


(自然・環境マネジメント研究部 田中 哲夫)








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Copyright(C) 1999, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 2001/11/21