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−石を見る−

石を見る

 「石」ということばから何を思い浮かべるでしょうか。美しい宝石を思い浮かべる人は多いでしょう。また庭石を連想する人もあるでしょう。金属の原料となる鉱石・石垣・ビルの石材・道端のお地蔵さん・河原の石・金魚鉢の中の石・漬物石など、あげたらきりがありません。石器時代に始まり現代にいたるまで、人は石を利用し、暮らしの中のいろいろな場面で石を見てきました。

 

宝石を見る

 人が宝石を身につけるようになったのはいつごろからでしょうか。ヨーロッパでは古くから幾何学的で美しい結晶を金属にはめ込んで指輪などにする風習がありました。最も古い宝石はエメラルドで、古代エジプトの時代にすでに採掘されていました。またクレオパトラがエメラルドの鉱山を持っていたのはよく知られています。日本でも古くから宝石が利用されましたが、それは主に瑪瑙、碧玉、翡翠、水晶などで、縄文〜古墳時代の遺跡から出土する勾玉で代表されるように、曲面に加工したものが好まれてきました。日本で指輪などに結晶のきれいな宝石を使用するようになったのは、明治以降になってからです。

近畿地方の主な石材産地
兵庫県では、六甲さんと男鹿島の花崗岩、播磨地域と但馬地域の
凝灰岩、玄武洞の玄武岩、淡路の砂岩が石材として知られています。

庭石を見る

 よく西洋は石の文化、日本は木の文化といわれます。しかし日本の石の文化も捨てたものではありません。たとえば姫路城や大阪城の石垣の美しさは見事です。また「虎の子渡し」として知られる竜安寺の石庭や大徳寺の枯山水などは石の特徴をうまく使った最高傑作といえるでしょう。
 ところで、「淡路花博」にはお出かけになりましたか。花博の主役はもちろん植物ですが、花博会場には準主役といってもいいほどたくさんの石が使われています。その中のひとつ国際庭園のコーナーではそれぞれの国や県の特徴が一つの庭に表現されていますが、必ずといっていいほど、その地域を代表する石がうまく使われています。真っ白な石灰岩と緑の草原のクロアチアや青緑の結晶片岩を随所に使った徳島県など、石を前面に出して展示したところもあれば、片隅にさりげなく使われているところもあります一口に石といっても、その地域にはその地域特有の石があり、それを使用した建造物や街並みは時としてその地域独特の景観を作り出すことがあります。景観は地域の歴史や文化を映し出し、その重要な要素のひとつとして石が存在しているのです。

 

兵庫の石を見る

 兵庫県を代表する石を三つあげるとすれば、石の宝殿で知られる高砂の竜山石、六甲山の花崗岩、玄武洞の玄武岩でしょう。これらはいずれも石材として使われた石で、そのうち竜山石は今も盛んに採石されています。竜山石を代表とする播磨地方の石材は、凝灰岩で加工しやすいため古墳時代から近畿地方各地の石棺や石仏などに利用されてきました。また姫路城の石垣の石も大部分がこの近辺の岩石です。
 石材として最もよく利用されるのは花崗岩でしょう。花崗岩のことを一般に「みかげ石」といいますが、この「みかげ」というのは神戸市の御影のことです。かつて六甲山地は全国有数の石材産地で、そこで切り出された花崗岩が御影浜から各地に積み出されたため、みかげ石と呼ばれるようになったのです。今でも石切道や石屋川などと言った地名に、その名残が見られます。
 地球上の火山で最も多い岩石は玄武岩です。この玄武岩の名前のもととなったのが玄武洞です。柱状節理が美しく国の天然記念物になっている玄武洞ですが、ここもかつては採石場で、灘石と呼ばれて石材に使用されていました。現在の洞窟は人が掘り出した跡なのです。
六甲山地の住吉で切り出されたみかげ石は、
牛車で運ばれ、御影浜から諸国へ積み出されました。
(摂津名所図解)

地球の歴史を見る

 石の研究者はまず野外で地層の様子や岩石の現れ方などを見ます。そして持ち帰った岩石を加工して顕微鏡や電子顕微鏡で観察します。彼らはいったい何を見ているのでしょうか。
 ある鉱物が生まれ、成長していくとき、そのまわりの温度や圧力などに応じてその科学成分や結晶の形を変えていきます。そこで、岩石中のひとつひとつの鉱物の種類や科学成分を細かく調べると、その岩石が経験した温度や圧力の履歴がわかり、さらにその地域の地殻変動のようすが明らかになっていきます。言換えると、石の中にはその石が経験した歴史がつまっているのです。そして岩石学者は色々な方法を使って石を見ることで、石の中に隠された地球の歴史を解き明かそうとしているのです。
 今私達の目の前にある石の中には、地下深くで誕生したときの歴史、地表に現れ風雨にさらされた歴史、人によって加工され利用された歴史がぎっしり詰まっているのです。そんな長い歴史の一つ一つに思いをはせながら石を見るのも楽しいと思いませんか。

 

(文 地球科学研究部 先山徹)



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Revised 2000/09/20