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−庭に遊ぶ−

庭ってなに?

 「庭」という言葉からイメージするものはどんな庭ですか? ある人は日本庭園、ある人は我が家の庭、そして、ある人は最近はやりのガーデニングの庭を思い浮かべるかもしれません。イメージは様々ですが、大きさや形態を問わなければ、庭はどんな住宅にもあります。いわゆる庭付き戸建て住宅だけでなく、マンションのベランダや窓際、密集した住宅の軒先や路地などが、私たちの庭として活躍しています。

 

歴史をひもとくと

 「にわ」という言葉は古代の日本では、今日よりも広い意味を持っていて、「打ち開けた場所」「海面の広がり」といった、空間的な広がりや場を意味する言葉であったといいます。それに対し、「なわばり」「囲まれた場所」といった意味合いの強い場合には「しま」という言葉が使われていました。現在使われている「庭」という言葉は、この「しま」という言葉の方が近いかもしれません。
 現在、日本庭園と呼ばれているものは、古代より律令時代にかけて、中国をはじめとする東アジアの国々からの文化の伝播にともなった様々な影響を受けつつ、日本独自の風土や文化と融けあって、成熟してきたものです。小低木を植え込んだ前栽というものがあります。これは平安時代に日本で生まれたもので、中国やその他の国々では見られないとされています。貴族が、野山から集めてきた山野草を庭に植え、風雅を楽しんだのが前栽の始まりだとする説もあります。そういった貴族の間の楽しみであった庭が、庶民へと広がるには、長い年月がかかりました。一般家庭に「庭」という概念が広まったのは、日本では意外と最近のことです。
 ただ、「庭」としてではありませんが、日本には草花を愛でる習慣が古くからありました。江戸時代、それまで貴族の楽しみであった園芸が、城下町を中心にブームとなりました。当初は、珍しい花や身分の高い人々が好む草花が珍重され、人々はこぞって、そういった草花を買い求めました。しかし、時を経るにつれ、庶民独自の価値観が芽生え始めました。その時々で、流行する草花は様々でしたが、きく、あさがお、おもと・・・など、今でも人々に広く愛されている草花がたくさんあります。  あさがお市やほうずき市など、各地でいろんな草花が売られるようになり、草花を育てることで、人々は日々の生活にうるおいをもとめ、季節のうつろいを身近に感じていたのかもしれません。
 庶民独自の価値観を育てた「しくみ」のひとつとして、「花会せ」という、言うなれば花の品評会がありました。そこで人々は、丹精こめて育てた草花を見せあい、競いあわせました。ここでは、草花を愛でるだけではなく、売買もおこなわれていました。楽しさを分かち合うなかで、草花を愛する人々の交流も深まったに違いありません。
 さて、19世紀初頭にパリで博覧会が開かれました。ここでは、パリジェンヌはもちろんのこと世界中の人々が、日本の洗練された園芸技術に驚いたといいます。それまでは、どこの国でも園芸といえば貴族の楽しみとして、主に宮廷の庭園や貴族の限られた庭でのみおこなわれていました。このパリ博覧会での日本の展示をきっかけにして、イギリスの庶民の庭に園芸が広がったという説があります。現在イングリッシュガーデンといわれるガーデニングの原点が、日本の園芸からはじまったものとすると、今の日本のガーデニングブームは、園芸技術の里帰りかもしれませんね。


庭でみどりを楽しむいまむかし

 このように、昔から日本では、草花をながめ、育て、そして、草花を通じて人とふれあい、憩う楽しみがありました。近年、ガーデニングがブームとなり、お店には珍しい草花が並び、巷では、ガーデニングに関する情報が飛び交っています。そこで昨年から今年にかけて、庭がどのように使われていて、庭づくりの楽しさがどういったものなのかを、三田市にお住まいの方々のご協力をいただいて調査してみました。
 「庭づくりを始めたきっかけ」、「庭でしていること」、「庭づくりの楽しさ」についてのみなさんの回答をまとめてみました。「庭づくりを始めたきっかけ」をみると、今までの経験や個人の趣味として始められたことがうかがえます。ところが、現在「庭でしていること」をみると、草花や野菜を育てることだけではなく、食事やお茶、おしゃべり、夕涼みなど、多彩な用途に使われていることが解ります。庭は、草花を育てるだけの場所ではなく、生活に密着した場に変身していることがうかがえます。また、「庭づくりの楽しさ」では、草花をながめる楽しみに加えて、育てる楽しみ、そして、野菜のお裾分けや、ご近所で一緒に草花を育てる楽しみ、といった「憩う楽しみ」がみられました。
 先にあげた「にわ」・「しま」の概念に照らし合わせれば、「庭」は囲い(「しま」)を越えて、広がり(「にわ」)を取り戻し始めたのかもしれません。
 このように、「ながめ」、「つくり」、「憩う」といった庭を通じた楽しみは、いまもむかしも変わらないようです。庭づくりにルールはありません。草花を愛し育てる人の個性と工夫しだいで、いろいろな楽しみ方が増えていきます。個性あふれる「わたしの庭」をつくってみませんか。


庭づくりを始めたきっかけ



庭でしていること


庭づくりの楽しさ



(水野優子)



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Copyright(C) 1999, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 2000/01/22