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春植物 −早春の小さな妖精−

春植物とは

 まだ山頂が雪で覆われている頃、木々が芽吹く直前の山すそでは、背丈の低い草が次々と花の時期を迎えます。

 これらの植物のうち、「春植物」と呼ばれる植物は、地上部(地面の上に出てわれわれが姿を見ることが出来る部分)の活動する季節が、ほぼ春に限られるのが特徴です。エゾエンゴサク、セツブンソウ、フクジュソウ、イチリンソウ、ニリンソウやキクザキイチゲ、あるいはカタクリ、アマナ、ヒメニラなどで、早春の湿った土からいち早く芽を出し、葉を広げ、花を開き、実を結び、芽出しから長くても2ヶ月、春が深まる頃には枯れてしまい休眠に入ります。

 

春植物の暮らし方

 早春は、わたしたちにとっても気持ちのよい季節ですが、植物の生長にも好条件がそろっています。昼間の時間や日光の強さは8月や9月と同じくらいなのに、競争相手である背の高い草や木々がまだ葉をひろげていませんから、光を十分に浴びることができます。葉に寄生するカビの仲間や葉を食べる昆虫などの天敵も、まだ活発には活動していません。雪解けの後でまだ気温が低く、土や大気も湿潤です。春植物は、この恵まれた季節を最大限に利用したあと、条件が悪くなる前に休眠に入る、という生き方をしている植物であることが浮かび上がってきます。このような暮らし方は、春植物のみかけやつくり、あるいは生育場所の好みに色濃く反映されています。

一度だけの展葉

 早春まっさきに葉を広げるために、葉や花のおおよそのかたちは前の年の秋のうちにあらかじめ出来上がっていて地中で待機しています。それらが開いてからは、新しい葉や花はつくられません。このため、多くの春植物では茎につく葉や花(または花序)の数が、種によって決まっています。光合成でつくられた炭水化物は、ほかの植物のように新しい葉を作るのに使われることはなく、種や実をつくるための分以外はイモや球根に蓄えられて次の年に使われるのを待つことになります。

 

みずみずしい葉と茎

 春植物の代表であるヤマエンゴサクの茎や葉は、やわらかく水分が多いつくりをしています。このような葉は、少ないエネルギーですばやく作り上げることができるのが長所です。一方、葉を長い間元気な状態で保ったり、茎を高くするのは難しくなります(建物に例えると、祭りの屋台や浜茶屋のようなものと言えるでしょう)。ヤマエンゴサクに限らず、多くの春植物の葉や茎が繊細な美しさを持っているのには、このような理由があります。

 

生育地

 春植物は、林や森の斜面のすそによく生えています。こういった場所では、木々からの落ち葉や小さな土砂崩れによって栄養分が補給されます。山間の谷の斜面のすそにはこういう地形が多く見られます。同じような理由から、川や沢の増水によって運ばれてきた土がたまるような場所も春植物のよいすみかとなります。このようなところは、砂防工事や河川敷の開発によって失われがちです。しかし、逆に、競争相手である背の低い木やササを人間が刈り取ったり焼き払うことで、春植物があたらしく現れてくることもあります。たんぼや畑や用水路のへり、薪炭林、放牧地といった場所がその例ですが、変わったところでは、線路わきの斜面や墓地などでも見事な群落が見られるときがあります。

(京都大学・総合人間学部 福原達人)



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Copyright(C) 1999, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1999/05/14