博物館は変化する

−キャビネットから科学博物館へ、そしてサイエンス・センターへ−

UCCコーヒー博物館長 諸岡博熊

まえに戻る 目次へ つぎへ進む  



 数年前、滋賀県立琵琶湖博物館に関与したとき、その対象区域と調査研究項目の大きさに驚いた。ところが、兵庫県立人と自然の博物館では、琵琶湖の数倍もする日本列島を縦断する膨大な地域を対象にしている。
 いずれにしても、博物館は常に時代の先端をリードして欲しい。この両者が日本における「自然史系博物館」のお手本となることを期待する。お手本となるには、優れた多数の研究者を擁することであるが、それ以上に「運営」の妙も発揮してもらいたい。科学博物館の傾向が、例えばパリのラ・ビレットのようなサイエンス・センターを目指すからだ。
 日本で活躍している博物館の運営傾向をみると、歴史系が資料の保存に約50%、美術系が鑑賞に約60%、理工系は教育普及に約70%、動水植物系ではレクリエーションに約70%と、それぞれ運営の重点を置いている。
 聞くところによると、ここでは多数の研究員による研究博物館を、目指しておられるそうだが、サイエンス・センターにするために教育普及に60%以上を当ててほしい。教育普及というと言葉が古すぎる。そこで「モノと情報の体系的な集積性と空間体験の場」つまり「好奇心を充足させ楽しませる場」と置き換えてみると、博物館運営がみえてくる。
 そのためには、モノと情報に起因する「楽しみ」を運営の手がかりとしたい。その上、モノのオリジナリティや実物性にあまり固執しないことである。それよりも、モノを取り巻く環境や社会の状況または、モノとモノとの関係そのものを複数のメディア、空間的展開やテーマの設定などで、利用者の交流体験(インタラクション)を通じて理解し易く、かつ、楽しませるようにすることが、新しい博物館の傾向と考える。つまり、「モノ、情報、人、空間」と利用者との多元的な接触面−インターフェイスの提供で、多くの人々が知的な文化的なものを容易に理解し体験できるという、新しい施設にすることである。
 現在、これらは映像や音声による多様な表現媒体やコンピュータで電子化された情報ハンドリング技術、さらに、実物と区別のつかないスーパーリアルなレプリカなど多様なメディア形式を駆使したテクノロジーの支援で実現可能となった。
 インターフェイスの発展とマルチメディア化によって、モノの情報に起因する楽しみを一方的な教育普及でなく、時代の息吹の感じられる県民のための新しい楽しみの場とするように、その運営を心がけて欲しい。
 とくに、地域の生態的環境とそれに依存した人々の生活活動や文化がどのように関連しあって、ひとつの風土をつくりあげているかを知ってもらう努力が求められる。そのためにも、そうした風土を学ぶことの重要さを体得することのできる仕組みや場づくりの運営が期待される。それは、モノに係わる価値(情報)に加えて、コトに係わる価値(楽しみ)を顕在化すること、まさに人と自然の産物をみせる新しい方向づけと思う。

まえに戻る 目次へ つぎへ進む  


Copyright(C) 1998, Museum of Nature and Human Activities, Hyogo
Revised 1998/03/20