冬に挑むカマキリ

2011年2月22日

 日本産昆虫の目録(1989年モノ)は本編の厚さが5センチ以上あり,1000頁にわたってびっしり虫の名前が載っています.しかし,その中でカマキリはたった1頁だけです.しかも頁の上半には大きな「カマキリ目」の見出しがあり,下半には大きめの余白があって,実質半頁に2科6属9種が載っているだけです.カマキリは昆虫の中ではごくごく少数派.その割に存在感が大きい不思議な仲間です.

 カマキリは体じたいも大きく,親しみやすい虫ですし,種数も少ないとくれば調べ尽くされている感じがします.でも,まだまだ分かってないことがあります.ヒメカマキリサツマヒメカマキリの関係もその一つだそうです.

 先日,本当はカキリ屋さんの中峰空氏がヒメカキリ類の標本調査に来られました(で,この話題は受け売りです).収蔵品データベースにあたっても,実際に標本をさがしても,博物館所蔵のヒメカマキリ(類)の標本は9匹のみ.ほとんどが県内の昆虫相調査の成果品です.これらの標本をチェックし,ラベルのデータをメモって行かれました.採集月日から判断してサツマらしいのはいないとの話でした.

 九州にはヒメカマとサツマヒメの両方がいて(ということは地域変異とか代替種関係とかではない),交尾器が異なり,そのつもりで見ると他の形態でも区別できるとのこと.なにより両種で周年経過がちがう,特に越冬の仕方がポイントで,ヒメカマは卵で,サツマは幼虫だそうです.なるほどねぇ.だとすると「南のカマキリが北上して”冬”に遭遇」→「二派あり,それぞれに適応」→「別種として同所的に共存」みたいなストーリーが思い描けます.おもしろい話です.たしかにヒメカマの卵鞘はフカフカが少なくて凍えそうです.苦労してるんすねぇ.

 ところが,国内外の記録を探すと従来の同定を100%信頼できる状況ではなく,”冬”がない所にも両種ともいることになっており,分布もちゃんと調べないとはっきりしない状況.さらに昨今はヒトによる分布攪乱が進行している懸念も.げげっ,またしても多様性の破壊?!

 標本を見ていて,以前に撮った写真を思い出しました.この機会に発掘してプルプル化しました.これは沖縄本島で2月に撮ったものです.さぶさぶさぶ.

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昆虫共生 沢田

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