他館で開催するオトシブミの企画展の準備をはじめました.

 … すこし変わった姿で,葉を巻く習性のあるムシ,オトシブミ …

確かにそうなのですが,説明や解説するときにいつも困る事があります.

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括れ型のヒメクロと象鼻虫型のアシナガ

一つは「くびれた首」の事です.オトシブミというと,複眼の後ろの方
で細くなった独特の形の首を思い浮かべますが,オトシブミ類のすべて
が「括れ型」というわけではないのです.日本産のものでもアシナガオ
トシブミなどはゾウムシ的な口吻が伸びた形をしています.さらにルリ
オトシブミの仲間は首が短く,口吻も短く平たく,下向きです.

ここらへんから,説明が「ベン図」の世界へ突入.オトシブミのややこ
しさは集合の問題なのです.

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こんな図を頭に描きつつ

つぎに「オトシブミ」と「非オトシブミ」のさかいめです.どこまでオ
トシブミと呼ぶか?という問題.具体的にはハマキチョッキリの仲間を
オトシブミに含めるかどうかです,ハマキチョッキリの仲間は立派な揺
籃(ゆりかご,ヨウラン)を作るし,なにより体がピカピカして美しい
ので,オトシブミを語る上で無視できない存在です.

系統発生上,オトシブミ類とチョッキリ類は古く分かれた系統と考えら
れており,類学的には研究者によって別の科としたり,同科の別亜科に
したりといった扱いの違いがある程度です.「ハマキチョッキリはオト
シブミではない!」と言ってしまえばそれまでなのですが,そうすると
「オトシブミとチョッキリはどう違うの?」,「形態による分類と葉を
巻く行動との対応は?」と,話がどんどん逸れていってしまいます.

オトシブミを扱うたいていの書物や展示において,本来提示したいテー
マは「それぞれの巧妙な適応」なので,「葉を巻くチョッキリ亜科をオ
トシブミとします!」と宣言することこそ,著者も編集者も,なにより
読者も,あるいは観覧者も展示担当者もハッピーな選択なのです.

ただ,チョッキリもオトシブミだと認めてしまうと,葉を巻かないチョ
ッキリが視野に入ってきます.チョッキリのなかには,花芽に穴をあけ
るだけ,とか,葉っぱを半分切るだけとか,実を切り落とすとか,いろ
んなのがいます.

次の難関は「葉を巻くとは?」です,これが定義できません.

実際の虫の動きを見ると,6本の脚で締め付けたり,逆に引き寄せたり,
口吻で押し込んだり,種によって異なる動きをしており,その結果,葉
が巻いたような状態になります.きわどいのは葉を切ると重力で垂れ下
がって,巻いた感じになるやつ(オイオイ).
で,虫の活動によって結果的に葉が巻いた状態になったら,それは虫が
巻いた事にしよう,というのが皆がハッピーな選択です.

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実を切り落とすモモチョッキリ

というわけで,オトシブミの本なり展示なりには,自動的にチョッキリ
も参加することになります.整然としたオトシブミの揺籃作りに対し,
チョッキリの産卵加工は多様です.
樽型の揺籃に代表されるオトシブミの揺籃作りは,それを主峰として,
幾つもの峰々を従え,さらに広大な裾野を持っています.そういう全体
像も見える,というのが理想なんですけどねぇ.


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おまけプルプル
ヒゲナガオトシブミの♀と♂

昆虫共生・沢田佳久
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