相次いで荷物が届きました.一つは象鼻虫の写真集で,タイトルは
「象虫」.超絶的な技術で標本を超精密に撮影してあります.生態写
真ではなく標本です.図鑑ではなく写真集です.
 人が顕微鏡で昆虫の標本を覗くと,じっとしていられません.もっ
と拡大してみたいし,別の部分を見たいし,あっちにこっちにピント
を合わせたいからです.その要望が全部,一枚の写真に写し込まれて
います.
 著者の小檜山賢二先生は「マイクロプレゼンス」を主張している方
です.肉眼では見えないけれども厳然と存在していて,何らかの方法
で見てしまうと驚嘆すべき境地が広がっている,巨大すぎるもの,微
細すぎるもの,早すぎる事,ゆっくりすぎる事,いろんな方面があり
ます.それを開拓していこうというような姿勢だと,私は解釈してい
ます(文中に明確な定義と説明あり).
 人間にとって昆虫は微細側の辺縁に位置します.いる事はわかる,
けど,黒い点にしか見えていないのです,一般の人には.しかし虫好
きの人はこれを標本にして顕微鏡を覗きます.感動的な美しさ奇怪さ
です,で,そういう技術も発達してきているのだから,写真集にして
みんなに見てもらおうではないか!というわけです.

koh-fuji.jpg
写真集”象虫”と3Dカメラ”W1"

 ところで博物館ではこの夏休みも,小さな昆虫を標本にする実演を
行っていますが,苦労するのは,モノが小さい事です.
 以前から作業の様子を拡大表示したりと,ちょっと「マイクロプレ
ゼンス」していましたが,今年は出来上がった(比較的できばえの良
い)標本を3Dのデジタルフォトフレームでお見せしています.
 10〜20倍程度の倍率でも,なかなかの迫力です.小さなゾウムシが
カブトムシ位の大きさに,しかも一体的に見えるので,子供たちは掴
みたくなるようです.

min-818.jpg
標本の3D表示

 さて,もう一つの荷物はW1という立体写真機(3Dカメラ)です.古
くから多様な立体写真機が開発されてきましたし,撮影する方も少な
くなかったのですが,立体写真の見せ方に普遍性がなく,特殊なもの
との見方が一般的でした.
 ところが,昨今の表示装置の急速な発達で一気に一般化しそうな状
況です.この写真機自体は普通の目の幅で撮影するためのものですが,
背面のモニターに,いわば撮影の補助のために付いている液晶が,す
でに3D表示できます.これとは別に本格的に表示専用の装置(デジタ
ルフォトフレーム)が別途発売されているのですが,カメラの背面モ
ニターでさえ,フツーに,3D表示できるのです.
 3D表示できる表示装置が普及すれば,すなわちインフラが整備さ
れれば,コンテンツも3D化します.マイクロプレゼンスも3Dを前提
に展開されるようになるでしょう.

 で,実演の時に見せるために用意したホソクチゾウムシの電子顕微
鏡写真をこのカメラのモニターに表示されるよう,変換してみました.
お持ちの方は下の写真をコピーして,拡張子をjpgからmpoに書き換え
たうえで,W1のSDの写真のフォルダにコピーしてみてください.
(なお,結果および影響は保証しません.既存のファイルはバック
アップをとった上でお試しください)
apion.jpg

昆虫共生・沢田佳久



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