岩槻邦男のコラム3

2009年5月 8日

 3月末に生物多様性ひょうご戦略が公示されました。この戦略の策定に当たって、ひとはくはシンクタンク機能を発揮し、参画と恊働の実を挙げることができました。

 生物多様性条約は1992年にリオデジャネイロで開かれた国連環境会議で採択された国際的な協定の一つです。日本はこの国際条約に積極的に賛成し、早期に批准して、成立に貢献しました。1993年5月に日本はカナダと並んで先進国としては最初に批准しましたが、その年の12月には、必要な条件を満たしてこの条約が発効することになりました。現在、世界の190国とEUが加盟しておりますが、アメリカ合衆国は参加していません。

 生物多様性条約では、加盟国はそれぞれの国で国家戦略をつくることとしており、日本も95年に最初の生物多様性国家戦略をつくりました。この戦略は常に変動する生物多様性と、それに対応する人間側の事情も踏まえて、5年ごとに改訂することにしており、2002年に新・生物多様性国家戦略、07年に第3次戦略がそれぞれ首相を座長とする関係閣僚会議で採択されました。

 生物多様性国家戦略は当時は政府の施策の基盤ではあっても、国内法によるものではありませんでした。2008年に生物多様性基本法が策定されましたが、この法で国家戦略をつくることが定められるだけでなく、地方公共団体やさまざまな主体がそれぞれに生物多様性戦略を策定することが期待されています。このような背景のもとに、生物多様性ひょうご戦略は08年春以来検討が進められてきましたが、09年3月に生物多様性にかかわる県の施策の基本方針として確定されました。

 兵庫県は日本海と瀬戸内海を南北に控え、中国山脈の東端を含み、さらに本州ではもっとも低地の平面分水界があって南北間の生物の移動に有利な地形をもつなど、多様な生物の棲息に好条件を備え、実際豊かな生物相がそこに住む人々の暮らしを潤してきました。自然と共生する日本人の生き方は兵庫県でも歴史を通じて見事に演出されてきました。最近も生物多様性について先進的な対応が図られてきました。生物多様性ひょうご戦略では、それらの現実が整理され、さらに今後必要とされる対応が述べられています。このひょうご戦略は兵庫県のホームページから読み取ることができますが、直接にhttp://www.kankyo.pref.hyogo.jp/JPN/apr/keikaku/strategy_of_biodiversity.pdfで検索することもできます。

 生物多様性ひょうご戦略は、兵庫県環境審議会が定めたものですが、この戦略の検討の過程では、人と自然の博物館がいろんな面で協力し、ひとはくがシンクタンク機能を十全に発揮したいい例となりました。兵庫県の生物多様性に関する情報が、ひとはくに蓄積されており、すでにこれまでにもさまざまな対応を行ってきた実績があり、その経験が役に立ったということです。もちろん、ひとはくは今後も兵庫県の生物多様性の持続的利用に貢献することに力を注ぎますが、それが日本の、そして地球の自然環境との共生に実を結ぶことが期待されます。環境問題に関しては、地域で活動し地球規模で考察する、は基本的な方針です。

 県レベルの戦略としては、最初につくられたのは千葉県で、兵庫県の戦略は約1年遅れて策定されました。目前に名古屋で開催される10年10月の第10回生物多様性条約加盟国会議(COP 10)が迫っています。ここでも、兵庫県の取り組みが地球の持続性を先導する力になることが期待されますが、そのためにも、生物多様性基本法に沿って、県下の多くの市町やさまざまな主体で生物多様性戦略が策定され、すべての県民が生物多様性の持続的な利用に向け、地球規模で考え、地域で活動することが期待されるところです。

 

岩槻邦男(人と自然の博物館 館長)

 

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