六甲山のキノコ展 〜ミニ展示ガイド 【vol.4】〜
 〜カゴタケ編〜

連載4回目となる今回は、キノコのなかでも一番きのこらしくない、アウトローな感じがする「カゴタケ」を紹介したいと思います。

kagotake_seikin.jpgこの写真をご覧頂ければわかるように、これを見てキノコだと直感できるひとは、なかなかのものです。
卵みたいな殻(右側)から、カゴ状の気色悪い物体が這い出してきて、ネバネバさんです。
なんか猟奇的な感じのするキノコですが、上の写真のように兵庫キノコ研究会の方は、ちゃんと葉っぱにのせて飾っているじゃありませんか!
もし、山の中で、切り株の上にこんなのが置いてあったら、何かあやしげな儀式でもしているじゃないかと思って
とりあえず退散ですね。実にアヤシイ...。
(キノコ研究会の皆さん!怪しいので山に放置しないでくださいね(笑))

御影高校の生徒たちも、なんでこれがキノコなんだろうか、と首をかしげるほどです。
ですが、匂いはキノコなんです。なかなか臭います。

御影高校生によるキノコ悪臭グランプリでは、
  1位 サンコタケ、 2位 スッポンタケ、 3位 カゴタケ
とのことです。

では、今回も兵庫きのこ研究会の中島さんにカゴタケの解説をしてもらいましょう。

●カゴタケ
スッポンタケやサンコタケと同じ腹菌類で、独立した腕でなくカゴ状につながった腕を拡げていく変わったキノコです。カゴは最初、器用に折りたたまれて白くぷよぷよした卵の中にはいっているのですが、外の膜が破れると数分のうちにみるみる広がるので、その場に遭遇したときはとても驚きます。写真に撮るよりできることならムービーに撮りたいキノコです。このカゴタケの胞子を含む緑褐色のグレバはほかによく腹菌類にある悪臭でなく、むしろフルーツ様のいい匂いがします。比較的めずらしいキノコですので、大切に観察しましょう。  (中島さん)
kagotake.jpg  kagotake_you.jpg

上の写真にあるように、殻のなかに「カゴ」のもとが入っていて、むくむくと広がるそうです。
キノコ研究会の中島さんやキノコ図鑑によると、「フルーツの香り」がするそうですが、高校生には、悪臭だったようです。
高校生の修行が足らんのか、研究会の皆さんが無我の境地に達しているのか、僕には分かりませんが、虫を寄せて、胞子を散布してもらうために、「におい」が必要なことは確かでしょう。

ですが、僕が生態学的な観点から興味があるのは、「なんでカゴなんや!」ということです。
一体、このかたちにどんな利点があるでしょうか。

 お昼の茶のみ話のネタで、15分ぐらい考えてみました。

タヌキやキツネの足に引っ掛かって、運ばれやすいという説が、となりにいた某研究員からでましたが、面白くないので却下。
で、結論ですが・・・、「通りゃんせ仮説」にたどりつきました。
(注意:とってもいい加減な説ですので信用しないように)

落葉に埋もれるようにカゴ状のキノコがあると、つい徘徊昆虫のオサムシなどがあいだを通りたくなってしまう・・・。オサムシやゴミムシがこのカゴ状の間を通ると...、つい食べたりもして、胞子が体表について散布してもらえる・・・。そんでもって、胞子が付着したオサムシが土の中にもぐり、地中に散布することができる。幼菌が地中性なので、土のなかに散布してもらうための苦肉の策ではないか、というものです。地上でハエも呼びつつ、徘徊性の昆虫にもOK。

こんな風に考えたのは、凍結乾燥標本をつくったからなんです。
数あるキノコのうち、カゴタケとスッポンタケだけは、表面と殻内のネバネバが、全然カラっと乾燥しないんです。
温熱乾燥、凍結、真空、なにをやってもベトベト。服につくとヤな感じ。
このベトベトさんが、わりとしっかり昆虫類の体表にへばりついて、胞子とともに地中まで散布されるに違いない、そう勝手に妄想しています。しかも、カゴタケはフルーツの香りがするって点も、ゴミムシなどの徘徊昆虫を寄せるのにイイかもしれません。

二人のこどもが手を組み合って腕で関所をつくる「通りゃんせ」遊びの様相は、まさにカゴタケ風だと思いませんか?
誰か研究して、結果が分かったら教えてください。この説が正しいと、絶滅危惧種でもあるカゴタケを保全するためには、地表徘徊性の昆虫をちゃんと保全しないといけないのかもしれません。
う〜ん、生物多様性って感じです。

kagotake_spec.jpg  IMG_7513.JPG

さて、標本づくりですが、ベトベトさんの割には、上手に作れます。難易度は、★★でしょうか。
凍結乾燥標本のままだと、ちょっと匂いがするので、展示用には封入標本がお勧めです。
不飽和ポリエステルにもポリメタクリル酸メチル樹脂、ウレタン系樹脂に対しても白濁することなくうまく表面コートされます。それと、形がもともと不定形なんで、ちょっとぐらい縮んでも分かりませんので、仕上がりはいいです。
余談ですが、某大学病院の方の談ですが、「人の脳みそ」の封入標本も、不定形なのと、そもそもナマの実物をまじまじと見ている人は稀なので、人体展のプラスティネーションで、「この脳は縮み気味だ!」という、マニアックな突っ込みはないので楽と言ってました(どう楽なんだろう・・・)。魚の標本だと煮干しみたいになるので、見た目にばれるんですよね。その点で、キノコの封入標本は、手(気も)が抜けるのでとても楽です。

次回は、臭いキノコNO1のサンコタケを紹介したいと思います。

 もっと兵庫のキノコを知りたいひとは、「兵庫キノコ研究会」の美しいホームページをご覧ください!
http://www.hyogo-kinoko.jp/

御影高校の活動をご覧になりたい方は、以下のページから、SPP支援講座のページをご覧ください。
http://www.hyogo-c.ed.jp/~mikage-hs/
「御影高校のSPP支援講座」
http://www.hyogo-c.ed.jp/~mikage-hs/spp/index.htm 

■ぜひ博物館へお越しください!
「六甲山のキノコ展〜リアルな森の妖精たち〜」は、2009年5月31日まで開催
場所: 兵庫県立人と自然の博物館 4階ひとはくサロン

【注意】
キノコの鑑定には十分な注意が必要です。初心者が、ホームページや図鑑を見て、食用できるかどうかを判断することは、大変危険です。食用と判断できない時は確実に鑑定できる専門家に尋ねてください。素人判断で食用することで、毎年のように死亡事故が発生していますので、不用意に食べることはお控ください。

(みつはし ひろむね)

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