ユニバーサル・ミュージアムをめざして25

 

ユニバーサルなホームページを考える事

 

三谷 雅純(みたに まさずみ)

 

 

 

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 今度、人と自然の博物館のホームページを変える計画があります。デザインは大きく変えないようですが、新しい機能が必要になることもあります。時に応じて変更することは大切です。

 

 ホームページの管理は、人と自然の博物館では情報管理課の方たちが責任を持っていますが、研究者の立ち場で意見を言うことも必要です。研究者の三橋弘宗さんはコンピュータに詳しいので、研究者の立場で意見を言う役を引き受けています。わたしは、その三橋さんから「ホームページをユニバーサルなものにしていく、よいアイデアがあれば教えて下さい」と言われました。ただし、お金はないのだそうです。

 

 わたしのこの「ユニバーサル・ミュージアムをめざして」というブログは、趣旨から言えば、本当は博物館全体を「ユニバーサル・ミュージアム」にするにはどうするかと考えるべきです。しかし、ひとはくの建物は建って20年以上が経っています。今からユニバーサルなものを立て直すのは大事です。ただ、館員が行うサービスを変えるのなら建てかえるよりは簡単ですし、機会がある時にホームページを「ユニバーサル・ミュージアム」らしいものに作りかえるのも、それほどお金はかかりません。それに、ホームページのユニバーサル化は、いろんな企業が進めています。すでにノウ・ハウもあるに違いありません。現にハンドブック (1) の類(たぐい)も、いろいろ出ています。

 

 そこで、わたしは、わたしにしか書けないモノを考えて、ブログに書いてみることにしました。ホームページのユニバーサル化がどんな事に注意するべきなのかは、それぞれのハンドブックに任せます。ぜひ、そちらを見て下さい。

 

 まず、わたしはどんな人間かを書いておきます。

 

 わたしには、漢字の学習障がい(LD)があります。上に書いた「ハンドブックの類」ということばには、「たぐい」というルビがないと、ついつい「るい」と読んでしまいます。ですから、ルビは振ってあるとうれしい。これは生まれつきです。

 

 それから、高次脳機能障がいもあります。11年前に脳梗塞(こうそく)になり、その後遺症(こうい・しょう)でマヒがあります。そして、疲れると失語が出るようになりました。ホームページに関係しそうなことでは、失語の経験が役に立ちそうです。

 

 失語症は脳に受けたダメージによっていろいろな症状が出てきます (2) 。そのような症状のひとつが、「長い文章を読み切れるほど根気が続かない」というものです。朝、起きてすぐとか、午後、疲れてくると、長い文章が読み切れなくなります。たとえば新聞の社説ぐらいになると、途中で休憩しないと読み切れません。新聞だと、毎日毎日、そんなに大きく論旨が変わるわけではありませんから、この新聞社は、だいたい○○のことを言っているのだとわかってしまいます。少なくとも、そのわかったような気持ちになります。すると、そこで止めてしまいたいのです。ですからわたしは、とんでもない誤解をしているニュースも、きっとあるはずです。

 

 そんな時、コンピュータが使えるのなら、自動読み上げソフト (3) を使います。自動読み上げソフトは、もともと全盲や弱視の視覚障がい者が使っていたものですが、わたしのように失語の出る人や高齢で字を読むことが苦痛になった人、LDで読めないという人にも役に立つはずです (4) 。自動読み上げ機能は、ぜひ入れて下さるようにお願いしましょう。

 

 ふたつ目は老眼です。わたしは年相応の老眼ですから、小さな字で、何でもかんでも情報は入れてあるような文章は、読む気が起こりません。そのような文章は、ひょっとして、書いたご本人でさえ二度と読まないのではないでしょうか? これでは、情報を伝えるという、一番大事な文章の役割を投げ捨てているようなものです。ただ「書いた」という事実が残るだけです。少なくとも、ある年齢以上の人は読めません(し、まだ文字のリテラシーが発達していない小さな子どもや知的障がい者は読みません)。

 

 どのコンピュータでも、普通は字の大きさが調節できます。しかし、目立つところにボタンがあって、簡単に画面操作で大きくなったり、小さくなったりするのでなければ、大抵の人は諦めてしまいます。コンピュータの苦手な人は特にそうです。字の大きさの調節機能は、ちょっと気の利いたホームページなら、付いているものです。これは、ぜひ入れていただくことにしましょう。

 

 三つ目は字の形への注文です。わたしはLDだと書きましたが、デスレクシア(=難読症)というほどではありません。デスレクシアの人は、縦棒(たてぼう)と横棒(よこぼう)の太さが違うと、全体でイメージがつかみにくくなるのだそうです。具体的には漢字です。アルファベットもそうなのかもしれませんが、漢字は典型的です。

 

 漢字は、よく明朝体で書きます。この明朝体というのは、縦の線と横の線の太さが違います。つまり、明朝体で書いた文章は、一部の人には、よくわからないということになります。ところが縦と横の太さが同じゴシックや丸ゴシックは、デスレクシアの人でもイメージしやすいのです。そのためにユニバーサル・デザインでは、なるべく明朝体は避け、ゴシックや丸ゴシックを使います。少なくとも、「全ての人にわかりやすいユニバーサルなものを」と心掛けている人なら、そうするでしょう。ホームページを書く時には、デスレクシアの人に見やすい字体をそろえておけばいいのです。

 

 今日、考えたユニバーサルなホームページで、少なくとも、わたしにわかりやすいものは、(1) 読み上げ機能が付いている事、(2) 字の大きさの調節機能が付いていること、(3) 明朝体は止めて、縦と横の太さが同じ字体で表すこととなります。でもこれは、LDで高次脳機能障がいがあるわたしにとっての見やすいホームページです。別の人には、また別の機能が必要になるでしょう。

 

 それにしても、デスレクシアの人には、字体によって意味が理解しやすかったり、理解しにくかったりするなんて、多くの人は想像もできないでしょう。わたしは、デスレクシアで学校の先生になった神山 忠さんの講演 (5) で、初めて知りました。でもLDの人は左右が区別しにくいので――わたしの場合は<へん>と<つくり>がゴチャゴチャになったり、“C”は“⊂”であったか“⊃”であったか、わからなくなったりします――、わたしには何となく理解できます。

 

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(1) 兵庫県では「ホームページ作成において配慮している項目」で、どのような内容に配慮するべきと考えているかが出てきます。

http://web.pref.hyogo.lg.jp/ud/consideration.html

また「ユニバーサルデザインに配慮したホームページ作成のガイドライン」が兵庫県県民政策部知事室広報課から公表されています。

http://web.pref.hyogo.lg.jp/documents/guideline_all.pdf

でも、これはコンピュータを使い慣れた方向きのような気がします。わたしには、ちょっとね……。

 兵庫県以外にも、さまざまな自治体や企業、市民団体が、誰にでも使いやすいホームページの作り方を公表しています。

 

(2) 失語症者の一般的な情報は、三谷(2011

http://hitohaku.jp/research_collections/no22pdf/HN22_06_43_51.pdf

や三谷(2012

http://hitohaku.jp/research_collections/no23pdf/NH23_05_61_67.pdf

にまとめました。ご覧下さい。

 

(3) 有償ですが、わたしはドキュメント・トーカを使っています。

http://www.createsystem.co.jp/DTalkerSapi1.html

 

(4) 自動読み上げ機能はデイジー(DAISY)に似ていますが、デイジーでは字が数行表れ、読み上げているところの色が変わります。中でもマルチメディア・デイジーでは動画や静止画も利用できます。(5) の神山 忠さんの講演はマルチメディア・デイジーです。マルチメディア・デイジーは視覚情報が大切ですから、視覚障がい者ではない人向きです。それに、視覚障がい者がホームページを<読む>時には、自分用の自動読み上げソフトを入れています。

 

(5) 神山 忠さんの講演はユーチューブで見ることができます。「デスレクシア」の講演は長いので、1から4に分けてあります。

http://www.youtube.com/watch?v=YISIvygN08I

http://www.youtube.com/watch?v=O9vZoRhFqng

http://www.youtube.com/watch?v=ALplOx0eHW4

http://www.youtube.com/watch?v=7UJFGob2O8c

神山 忠さんの講演のようすを流していますが、まさにこれがマルチメディア・デイジーです。

 

 

 

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三谷 雅純(みたに まさずみ)

兵庫県立大学 自然・環境科学研究所

/人と自然の博物館

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